多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

沢村凛『旅する通り雨』

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★内容紹介
・最初に登場するのは「わたし」。「わたし」は、どこか近未来を思わせる高度に科学的・機械的な場所から、扉を開けてある場所に出た。そこは自然が豊かなところのようだが,
「わたし」はその場所にあまり馴染みがないらしい。
・そこで章が変わって、次に登場するのは、ハランという少年。舞台は中世のヨーロッパの田舎を思わせる牧歌的な村。移動は徒歩か馬車、電気もガスも電話もないという文明のレベル。ある日ハランは、大人たちが雨について謎めいた話をしているのを聞いた。いわく、「雨がくると、覚悟をしなけりゃいけない。家族がひとり、減ることを」その話を聞いたハランは、雨というのは死神のようなものだろうかと考える。そして村に通り雨が降り、その雨と一緒に旅人がやってくる。旅人はハランの家に滞在することになり、旅をしてきた他の村の話などをしてハランの家族を楽しませるが、両親や祖父はこの旅人について何かを隠しているようで……。
・ここから物語は、ハランの家族(祖父、両親、兄、姉)ひとりひとりの視点の章と、冒頭に登場した「わたし」の章が入れ替わりながら進んでいくが、そのうちに、この世界に隠されたある秘密が明らかになる……。
★読みどころ1)この世界の謎
ハランとその家族の章は本当にのどかで牧歌的な田舎の暮らしが綴られ、ハランが旅人を死神ではないかと心配する様子や、姉とのきょうだいゲンカなど、微笑ましい物語が続く。そこだけ見ると、のどかなファンタジーのようだが、物語の冒頭の「わたし」の場面ではかなり科学の進んだ場所があることが示されており、ハランの世界と「わたし」の世界がどう結びつくのかという興味がわく。さらに、ハランの父や祖父、兄の章では、田舎の暮らしが描かれながらも、この文明ではありえないような単語がちらっと顔を出す。どうも見た通りの世界ではなさそうで……?もうひとつ、ハランが聞いた、雨がくると家族が減る、とはどういう意味なのかという謎もある。これらの謎がきれいにひとつのつながる過程は大興奮!
★読みどころ2)ちょうどいい「文明」とは何かというテーマ
謎の真相はここでは明かせないが、この物語が描いているのは、文明の発達と幸せについて。ハランたちが暮らす村は電気もガスも自動車もない、日本で言えば江戸時代の農村で、今の文明を知っているととても不便に思えるが、それが当たり前なら不自由は感じない。一方、現代は日々進化する技術の恩恵は計り知れず、それなしでは暮らせない状態だが、それを息苦しく感じ、スローライフがもてはやされたりもする。人は何が足りていれば満足できるのか、何なら捨てることができるのか、ちょうどいい文明はどのあたりなのかを考えさせてくれる。
・今の暮らしを見つめ直したくなる一冊です。

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