多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

角田光代訳、紫式部『源氏物語』

[この番組の画像一覧を見る]

★内容紹介
・平安時代中期、中宮彰子に支えていた女官の紫式部が書いたとされる長編小説。桐壺の更衣という女官をあまりに帝が寵愛したため周囲の嫉妬を買ってしまい、その嫌がらせと、もともと病弱だったこともあって亡くなってしまう。その桐壺と帝の間に誕生した皇子は、見た目も中身も完璧な少年で腹違いの兄がいたにもかかわらず帝はその子に次の帝位を譲ろうとしたが、占いにより、その子は帝王になる資質はあるが帝位につくと世が乱れると言われてしまう。それで仕方なく、源氏の名を与えて臣籍降下させた。これが光源氏。
・のちに帝は、亡くなった桐壺に生写しの女御、藤壺を愛するようになる。そして成長した光源氏も、母に似ているという藤壺を慕うようになる。しかし父である帝の妻ということで光源氏は思いをおさえていたが……。以降、光源氏をめぐる多くの女性たちとの恋愛遍歴や、宮廷内での権力闘争などの様子が描かれ、最終的には光源氏の死後、その息子世代にまで話が続く大河小説。
★読みどころ)千年前の小説を今の視点で読む面白さ
今の感覚で読むと、この光源氏という主人公はかなりめちゃくちゃなことをやっていて、むしろ腹が立つという人の方が多いかも。マザコンだしロリコンだしルッキズムはひどいしやってることはほぼレイプだし、未成年の誘拐監禁もしている。最終的に幸せにはならずに終わるのでざまあみろと言いたくなるが、ではどうして当時の読者に、特に女性読者に人気があったのか。当時はこれが犯罪でもコンプライアンス違反でもなく、恋愛とはこういうものだったから。今とは恋愛の形も概念もまったく違う、そういう世界を知る面白さがある。腹は立つけど。それらが犯罪ではなかった代わりに、今とは異なる苦労が描かれる。たとえば貴族の男性は正妻の他に複数の妾のもとに通うのが一般的だったが、光源氏は早くに正妻を亡くしてしまう。そのあとに出会った紫の上は、光源氏が生涯を通して最も愛した女性でありパートナーとしても完璧な相手だったが正妻にはなれなかった。なぜなら親の身分が低かったから。貴族の男性にとって結婚はイコール婚家の力を借りて出世するためのもの。善悪ではなくそういうものだった。そんな当時の常識を知って読むと、ただのプレイボーイではない平安時代の宮中政治とそれに翻弄される人々のドラマが見えてくる。今と違うところ、今も昔も変わらないところを味わいながら読むのが楽しい。
★おすすめ現代語訳)
原文で読むのはさすがに難しいが、今は多くの現代語訳が出ている。古くは与謝野晶子、谷崎潤一郎、ヒットしたのは70年代に出た円地文子訳。その後に出た田辺聖子訳は読みやすいがアレンジが多いので現代語訳というより翻案といった感じ。他に瀬戸内寂聴訳などもあるが、今読むなら、角田光代さんの訳がいい。2017年から2年にかけて単行本で上中下巻が刊行され、昨年、文庫化も始まった。原文に忠実なのはもちろんだが、その上でとても自然で読みやすい文章になっている上、中に登場する和歌や漢詩の解説も手厚い。源氏の面白さをたっぷり味わえる現代語訳。また、2008年には新潮社から「ナインストーリーズ・オブ・ゲンジ」というアンソロジーが出ていてこれは江國香織や町田康、桐野夏生といった9人の人気作家がそれぞれ源氏物語を一章ずつ現代語訳したもの。個性が出ていて面白いので、そういうところから入ってもいいかも。
・大河ドラマも一層楽しめるようになる、日本古典を代表する文学。
角田光代訳、紫式部『源氏物語』
『源氏物語』の1は河出文庫から880円で販売中です。

関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報