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水庭れん『うるうの朝顔』

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★内容紹介
・閏とはもともと「余分」という意味。暦や時間にはわずかなズレがあって、時が経つとそのズレが大きくなっていってしまう。そのため4年に1日、余分な1日を加えることで調整する。閏秒というのもあって、これまで22回、1日のうちに余分な1秒が挿入されている。(直近では2017年1月1日午前8時59分60秒)
・この『うるうの朝顔』は、辛い思いを抱えている人たちが不思議な朝顔の種をもらい、その朝顔が咲くと、その辛さの原因になっている過去の出来事を夢の中で追体験する。そのとき、現実にはなかった、あるいはあったけれど当人が忘れていたり気づいてなかったりする1秒が挿入される。まれに、1秒が削除されることもある。その1秒が、その人の抱えている「ズレ」を治して、心を癒していくという連作。
・第一話の主人公は、夫と離婚して小学生の息子をひとりで育てているシングルマザーの千晶。元夫が息子を叱るときに手を上げたことが許せず、暴力が選択肢に入っている人とは暮らせないと離婚を決意した。実は千晶の母も夫と別れ、女手ひとつで千晶と姉のふたりの娘を育てた人物。父親については、幼い頃姉が父親にぶたれて泣いているのを見たのがたったひとつの記憶。離婚という選択は間違っていないと思うものの、これからの生活の不安や、元夫が決められた面会日以上に息子に会いたがることが重なり、いらいらして息子に当たってしまうこともあり、すっかり疲れていた。そんなとき、亡くなった母親のお墓参りに来た霊園で千晶はにわか雨に降られ、霊園の管理事務所で働いている青年、日置凪に勧められ事務所で雨宿りをすることに。世間話の中で凪は千晶が何か悩みを抱えていることに気づいたらしく、彼女に朝顔の種を渡す。これを植えれば過去のズレがなおると言われた千晶が半信半疑で試してみると……。
・第二話は会社での仕事と恋愛に悩みを抱える青年、第三話は幼馴染の孤独死の片付けをした老人、第四話は亡くなった担任教師の幽霊が見える小学生などが、この朝顔の種をもらい、過去と向き合うことになる。そして第五話は凪自身の物語。

★読みどころ1)ズレに向き合う姿
人生が何かうまくいかない、と感じた時、実は原因は些細なことだったりする。ただ些細なズレを放っておくと、暦と一緒でそのズレがどんどん大きくなる。ズレの原因と向き合うことは、もしかしたら自分の黒歴史に向き合う辛い作業かもしれないがおおもとのズレから逃げていては何も解決しないというテーマが伝わってくる。そしてズレを正面から直視したとき、その時は気づかなかったことに時が経った今だからこそ気づけるということもある。どんなに時が経っても、過去のズレを修正することでそこから生き直せる様子が清々しい。
★読みどころ2)凪自身の事情
第五話では凪自身が抱えるズレがテーマになる。この章では、それまでの四話について救った側である凪がそれぞれ相手をどう見ていたか、凪もまた彼らによって救われていた様子が描かれるとともに、「うるうの朝顔」の正体が明らかになる。うるうの朝顔の本当の役目が何かという謎解きは、まるで上質のミステリのようなカタルシスがあるとともに、自分が本当に大事にしなくてはならないものが何なのかを伝えてくれる。
・閏年の閏日に読むのにぴったりな一冊。
水庭れん『うるうの朝顔』
講談社から1815円で販売中です。
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