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西山ガラシャ『おから猫』

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★内容紹介
・物語の始まりは江戸中期。名古屋城の南にある「おから猫神社」で願い事をすると、猫神様が願いを叶えてくれるという言い伝えがある。そこにやってきた人々の願いとその顛末を連作で描く──というとファンタジーっぽいが、実は連作を順に読むと、江戸中期から明治末期にかけての尾張の庶民の歴史が描かれている。
・この「おから猫神社」は実在の神社。現在の大須、地下鉄上前津駅の近くにある、「大直禰子(おおだたねこ)神社」のことと思われる。本当は猫を祀っているわけではないらしいが、その名前のせいか、江戸時代からおから猫神社、猫の神社と親しまれてきた。中区丸田町の交差点に残る江戸時代の道標には、「みなみ 熱田みち」などの表記に交じって、「西 おからねこ道」と記されている。
・第一話は、畳職人が偶然出会った遊女と盆踊りの日に愛を育む話。猫神様に祈ったら不思議な猫が現れて縁をとりもってくれた。けれどふたりの恋は心中未遂という悲しい運命に向かっていく。第二話は第一話から78年後の江戸後期。尾張で毎年行われているからくり山車祭りの日に火災が起きる。第三話は、葛飾北斎が尾張を訪れたときの話。尾張の版元が、一儲けすげく北斎のプロモーションをしかける。第四話は幕末。ペリー来航で世間が騒がしくなる中、蘭学を学ぶ青年が江戸に呼ばれる。第五話は明治初期。収入のなくなった武士の妻が呉服店でアルバイトを始める。そして最終話は明治末期、納屋橋の架け替えに携わる青年の物語。
★読みどころ)ファンタジーに見えて、実在の人物や出来事が描かれている。
たとえば第一話の畳職人と遊女の心中未遂は本当にあった出来事。それを膨らませてフィクションにしているが、それだけではなく、当時、尾張藩主が徳川宗春だった時代がどういうものだったかが描かれている。第二話のからくり山車祭りは、今も尾張の各地で行われている祭り。さらにこの話には玉屋庄兵衛というからくり人形師が登場する。玉屋庄兵衛の名前はその後も受け継がれて、今は九代目が活躍している。第三話で葛飾北斎が尾張にやってきたのも事実。有名な「北斎漫画」を最初に出したのは尾張の版元。また、弟子が北斎を不二見原(今の名古屋市中区富士見町)に案内する場面や木桶職人を訪ねる場面があり、それが富嶽三十六景の尾州不二見原につながった。第四話に登場する蘭学を学ぶ青年は後の宇都宮鉱之進と柳河春三。宇都宮鉱之進は「化学」という言葉を普及させた人物で、柳河春三は語学に秀でて幕府の教育機関で教授を務めた。どちらも尾張出身で、幕末の教育に大きな貢献をした人物。第五話で武士の妻がアルバイトをする呉服店は、今では誰もが知っている大きな店。それだけでなく、同じように職にあぶれた武士の妻や娘が働けるように、今の名古屋市東区に織物工場が建てられた話なども出てくる。何よりこの話では、新政府に献上された名古屋城の金のシャチホコを尾張の人々が取り戻そうとする様子が描かれる。そして最終話の納屋橋の架け替えは、時を超えて、福島正則が堀川を掘削した江戸時代初期が回想される。
・どれも、その時代の尾張の庶民がどんなふうに生活していたかが、実在の地名や出来事とからめていきいきと描かれる。時代が受け継がれて今があるということをあらためて感じさせてくれる一冊。
西山ガラシャ『おから猫』
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