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高森美由紀さんの『小田くん家は南部せんべい店』

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★内容紹介
・語り手は小学校四年生の小田弘毅(こうき)くん。彼の家は青森県で南部せんべい屋を営んでいる。南部せんべいとは、青森県の八戸が発祥とされる郷土菓子。水で練った小麦粉に塩と重曹だけで、丸い鋳型に入れて焼いたシンプルなせんべいで、保存がきくため古くは南部藩の野戦食だった。普通の白せんべいと呼ばれるものの他に、ゴマやピーナッツなどを加えて焼いたり、水飴や赤飯を挟んだり、白せんべいは鍋に入れてせんべい汁にするという食べ方もある。今では青森から岩手北部を代表する名物のひとつ。
・小田せんべい店でせんべいを焼くのはおじいちゃんの義男さん。通称よっしー。おばあちゃんとおかあさんが店を手伝い、お父さんはサラリーマン。それと高校生のお姉ちゃんと、弘毅の六人家族。この家族の約1年間が綴られる。
・第一話は、弘毅のクラスで二学期に行われた社会科見学がテーマ。地元を知ろうというテーマで、なんと弘毅の家のせんべい店をクラスのみんなが見学することになった。けれど子どもにとってせんべいは特に魅力的ではなく、粉だらけで汚いとか、建物が古いなどとバカにされてしまう。ところが見学当日、なぜか夏休み明けから学校に来なくなっていた同級生が、小田せんべい店に現れる。先生や同級生は驚くがなぜその生徒は急にせんべい店の見学に来る気になったのか?
・第二話はバレンタインデーの話。弘毅のお姉ちゃんは第一志望の高校に合格できず、地元の高校に通っている。ある日、第一志望に合格した中学時代の友人たちが小田せんべい店を訪れ、親しげに話しかけながらもマウントをとってきた。弘毅は腹が立って仕方なかったが、そのあと、お姉ちゃんのある変化に気づく。
・……という二話を読むと、昔ながらの家族経営のせんべい店を舞台にした、明るくて仲のいい家族の日常のささやかなあれこれが描かれる、ほっこりした連作なんだなと思う。だが第三話で「あれ?」と思う。第三話は、家族レク(授業参観のようなもの)に、母も父も仕事で来られそうにない、という話なのだが、その途中で「もしかして」と思う箇所がある。そしてその「もしかして」の詳細がわかったとき、この物語の風合いががらりと変わる。
★読みどころ1)子どもなりに壁にぶつかりながら成長する姿
弘毅はまだ10歳だが、それでも家族の中での自分の立ち位置に悩んだり、学校の友達とうまくいかなくて悩んだりする。また、物語の後半ではさまざまな別れを経験することになり、子どもなりに「人と離れてしまう」「会えなくなる」とはどういうことかを懸命に理解しようとする。子どもなので感情が先に立ったり、まだ狭い世界の中だけの知識で考えたりして自分でもどうすればいいのかわからなくなるが、そんなときに祖父をはじめとした家族がさりげなく手を貸す姿がいい。
★読みどころ2)南部せんべいの使い方
バレンタインデーには砕いた南部せんべいでチョコクランチを作ったり、冠婚葬祭にはまっしろな南部せんべいを焼いたり。水飴を挟んだ南部せんべいを友達と食べようとしてうっかりこたつ布団に落として慌てて隠そうとしたり、病気の人のために白せんべいを柔らかく煮たものを作ったりと、日々の生活の中に南部せんべいがさまざまな形で登場する。そういった「思い出の随所に出てくる何か」というのは、その地域ごとに、その人ごとに存在しているもので、自分にとっての南部せんべいは何だろうと考えさせてくれる。
・何より、南部せんべいが食べたくなる。暖かくて心が洗われる物語。
高森美由紀『小田くん家は南部せんべい店』
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