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アンソロジー『もふもふ 犬猫まみれの短編集』

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★内容紹介
・8篇の短編が収録されており、そのうち4作が犬の話、4作が猫の話。作者は、犬を描いたのがカツセマサヒコさん、恩田陸さん、結城光流さん、二宮篤人さん、猫を描いたのが山内マリコさん、早見和真さん、三川みりさん、朱野帰子さん。どの話も犬好き猫好きにはたまらないもふもふ具合だが、内容は実にバラエティに富んでいて決してただ可愛いだけの話ではないのがポイント。ミステリーっぽいものあり、ホラーっぽいものあり、和むものがある一方で切ない話もある。
・短編集は最初のページから順に読んでいく人が多いと思うが、この本は要注意。第一話「笑う門」(犬)、第二話「猫とずっと一緒にいる方法」(猫)は、ともにずっと飼っていた犬、そして猫が亡くなる話。いきなり辛い話から始まる。
・猫の日なので猫の話を紹介すると、山内マリコ「猫とずっと一緒にいる方法」は、二十代で離婚して一人暮らしの女性が、ずっと飼っていた黒猫が天寿を全うしたあと、寂しさを紛らわすために、ペルーのレタブロという祭壇を作り始める話。粘土で作った人形とともに物語の背景が描かれているタイプの祭壇で、そこに猫の人形とありし日の風景を作っていくうちに、猫との出会いから別れまでを思い出す。実家での暮らしも、結婚生活も、決して幸せではなかった主人公が自分の足で立てるようになるまでのこれまでの人生を、猫の思い出とともに振り返る。
・猫小説のふたつめは早見和真「あの陽だまりと、カレと」。これもある女性が語り手で偶然ある再会を果たす場面から始まるが、これはちょっと内容は紹介できない。読んでいくうちに、もしかして?と思う人もいるかもしれないし、最後まで読んでも結局どういうことだったのかな?と感じる人もいるかも。いろいろな考察が楽しめる。
・みっつめは三川みり「やばいコンビニの山本君と、猫の恩返し」。これは可愛い!たぶん犬も含めた収録作のなかでいちばん可愛い話。語り手は一歳になった子猫のミルクとモカ。彼女たちは生まれてまもない頃にコンビニでバイトをしている山本君に保護された。車に轢かれそうだったところを助けられ、暖かな場所で餌をもらい、彼の部屋では動物は飼えないので優しい飼い主も見つけてくれた。ミルクとモカはその恩を忘れず、自分たちが一歳になったら恩返しに行こうと決めていた。その山本君が働くコンビニは実は曰くつきで、心霊現象が多発するということで夜はお客さんがまったくこない。その夜も暇な時間を過ごしていた山本君だったが、そこに……。
・そして最後が朱野帰子さんの「昨日もキーボードがめちゃくちゃになりました」。これは猫を飼っている人には共感度MAXの話。コロナ禍で仕事がリモートになって、刑部(おさかべ)くんは猫を描い始めた。ところがこの猫がめちゃくちゃ悪戯好き。リモートにはパソコンとその周辺機器が必須なのに、猫がキーボードのキーを外すことを覚えてしまう。彼のキーボードはめちゃくちゃ高級なシロモノでなんとか守ろうとするがその隙をついて猫はキーボードにいたずらをする。さらにイヤホンのコードをかじったり、台所の水道のレバーを上げ下げして水浸しにしたりと、刑部くんは振り回されっぱなし。辛抱たまらず猫を飼っている先輩に相談しても、人間は猫に奉仕するものだから猫の動きを制限しようとしちゃダメと言われてしまう。実は刑部くん、人と一緒に何かをするのが大の苦手で、会社でもずっとひとりでやれる仕事の部署で黙々と結果を出し続けてきた。それでいいと思っていたが、思うようにならない猫のとの関係のなかで、相手をどうにかしようというのが難しいのは人間も同じでは、と気づく……。
・可愛がっていた猫との別れから、いたずら好きの猫に手を焼く話まで、どのページにももふもふが詰まった一冊。
アンソロジー『もふもふ 犬猫まみれの短編集』
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