多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

織守きょうや『キスに煙』

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★内容紹介
・主人公はふたりの男性フィギュアスケーター、塩澤と志藤。塩澤は25歳で自分の伸び代に限界を感じて、トップスケーターの地位にいるうちに引退、完全にスケートから離れて、ファッションデザインの会社で働いている。その塩澤の現役時代の好敵手だったのが志藤。互いに表彰台を争い、塩澤が引退した今も、志藤は世界のトップスケーターとして活躍している。塩澤が引退したあともふたりの友情は続き、志藤の大会や練習の合間を縫って一緒に呑んだりしている仲。
・ただふたりには、それぞれ相手に秘密にしている思いがあった。志藤は塩澤に対して現役復帰してほしいと願っている。塩澤という好敵手がいてこそ自分も張り合いがあったし、氷の上に塩澤がいないのはもったいない、現役が無理ならショーのスケーターでもいいからまた一緒に滑りたい。だが塩澤に現役への未練がないのがわかっている。新たな場所で新たな仕事にやりがいを持って活躍している塩澤にそれを言い出せない。
・一方、塩澤はバイセクシャルで、実はずっと志藤に対して恋心を抱いていた。しかし志藤の恋愛対象が女性なのはわかっているし、好敵手で親友という今の状態を壊したくないので、その思いはずっと隠していくと心に決めていた。
・そんなとき、ある出来事が起きる。彼らの先輩にあたる元フィギュアスケーターで現在は行進の指導にあたっているミラーというカナダ人コーチがいる。彼は日本人と結婚し、拠点を日本に置いていたのだが、現役時代からエキセントリックな性格で敵が多かった。特に志藤とは犬猿の仲。そして塩澤とは、実は一時期恋人として付き合ったことがあった。そのミラーがマンションのベランダから転落して死亡する。事故か自殺か他殺かわからない。そしてあるきっかけから、塩澤は志藤が折り合いの悪かったミラーを殺したのではないかと考える。一方、志藤は、ミラーと塩澤が以前付き合っていたことを知って、痴情のもつれで塩澤がミラーを殺したのではないかと考える。恋と猜疑心、友情と猜疑心の間でふたりは……。
★読みどころ1)ふたりの関係の描写
本書は4つのパートに分かれているが、お互いを疑い始めるのは3つめのパート。むしろそこに至るまでの、ふたりの日常の描写と感情のやり取りの描写が素晴らしい。面白いのは、志藤に恋心を抱きつつも叶わないと割り切ってその気持ちを押さえ、普通に友人として付き合っている塩澤より、なんとか塩澤にスケートの世界に戻ってきて欲しいと願う志藤の方が、塩澤に片思いしているかのように見えてくる。読みながら、友情と恋愛って性的な接触の有無を除けば、実は大きな違いはないんじゃないのか、誰かを大事に思って、その人が困るようなことはするまいと思う気持ちは同じではないのかと思えてくる。
★読みどころ2)才能の物語でもある
話の結末にかかわるので具体的には言えないが、才能が枯れていくということについて書いた物語でもある。塩澤は「今より伸びることはない」と考えた時点で引退し、志藤は大怪我をしたあとで引退するのではなく意外な手段で現役を続ける。また、ミラーは若い才能を見て自分の限界を知り、コーチになる。自分の才能や実力の変化とどう折り合いをつけるかというアスリートの物語でもある。
・一風変わった恋愛小説。最後には意外な真相が待っています。
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