多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

水村舟『県警の守護神』

[この番組の画像一覧を見る]

★内容紹介
・サブタイトルは「警務部監察課訟務係」。かつては警察小説といえば刑事が事件を追う捜査小説のことだった。けれど2000年前後から刑事以外の警察官を主人公にした作品が出始める。横山秀夫が書いた警察の人事担当の話や長岡弘樹の警察学校の教官モノなど。刑事ばかりが警察官じゃない、という潮流にまた新たなジャンルが加わった。それが本書の警務部監察課訟務係。訟務係とは、警察が訴えられたときに対応にあたる部署。
・主人公は交番勤務の新米警察官、霧島千隼。通報を受けて上司とともにパトカーで現場に向かう途中、バイクの自損事故を目撃してパトカーを停め、救助に向かった。ところがそこに別の車が突っ込んできて、千隼は少年もろともひき逃げされてしまう。重傷を負った千隼が病院で目を覚ましたのは事故からかなり日が経ってから。少年は結局亡くなったと聞いて自分を責める千隼だったが、その少年の遺族が千隼を訴えた。遺族側の弁護士曰く、千隼は暴走行為をしていた少年が転倒したのをいいことに取り押さえ、車が来たときも自分だけ逃げようとした、その責任を取るべきというもの。まったくの事実無根の上、上司が運転していたはずのパトカーも千隼が運転していたことになっている。他にも事実と食い違う箇所が多々あり、訟務係に呼び出された千隼はでたらめだと主張したが、実は千隼が意識不明の間に本人に事情聴取されないまま調書が作られており、千隼は中身を読まずにサインしていた。
・訟務係の荒城は元裁判官という変わり種の警察官。千隼の話を聞いても、大事なのは裁判に勝つことであって真実がどうかではない、というスタンス。しかもすでに千隼が調書にサインしている以上、その調書が間違いと認めてはならない。その上で警察の調書と異なる部分を争点に裁判を進めようとする。しかし間違った調書に沿って証言するということは嘘をつけということ。正義の味方に憧れて警察官になった千隼はそれがどうしても納得できない。
・はたして裁判はどうなるのか、千隼は嘘がつけるのか、そして県警はなぜ真実と異なる調書を作っていたのか。そして裁判後、千隼の事故と同じ時刻に起きた女性警察官発砲事案について、その発砲が不適切であるとして狙撃された容疑者から損害賠償を求める訴えが出され……。
★読みどころ1)訟務係という部署の興味深さ
警察小説ではあるが、裁判にどう勝つか、どんな証拠や証人を揃えてどんな作戦でいくかという流れはまさにリーガルサスペンスの面白さ。
★読みどころ2)訟務係の荒城のダークヒーローぶり
荒城は裁判に勝つことを第一に考えているので、そのためには思わぬ策略も使うし身内も騙す。純粋な千隼に嘘を強要するなど、酷い人だなと思って読んでいると、そういうことだったのかというカタルシスがある。裁判の相手だけではなく味方も、そして読者も騙すそのテクニックに痺れる。
★読みどころ3)背後にある大きな陰謀
個別の訴訟案件が思いがけない形でつながり、意外な真相が浮かび上がる過程は実にエキサイティング。序盤にヒントもしっかり出されており、ミステリとして読み応え抜群。
・警察小説の新たな潮流を作る一冊。

水村舟『県警の守護神』
小学館から1760円で販売中です。
関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報