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第170回直木賞受賞作 川崎秋子『ともぐい』

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★内容紹介
・舞台は日露戦争間近な明治の北海道、主人公は山小屋に暮らす猟師の熊爪という男。熊爪の暮らしはとてもシンプルで、食べるために動物を殺す。自分が食べる分以外は里に持っていって金に換える。動物を殺すことは善悪ではなく生きるために必要な行為であり、必要なら殺すしそうでなければ殺さない。感傷や理屈の入る隙間はない。生活に何の変化も求めないし、むしろ何も変わらなければそれでいいと考えている。
・ある日、熊爪が暮らす山の入り口で顔に大怪我をした男が倒れていた。その男は自分の村で畑の作物を荒らした熊を追ってきたが返り討ちにあったらしい。人助けというのは熊爪の概念にはないが、まだ新しい鉄砲をくれるというので助けることに。人間を傷つけたことでその熊は今後、人を獲物だと考えるようになる。そんな熊を自分の山に引き込んだ男に腹を立てながら熊爪は男を介抱し、里に連れて降りたところ、いつも肉を買ってくれる大店の旦那から、その危険な熊を撃ってくれるよう依頼される。
★読みどころ1)人間の根源的な「生きる」という姿
熊爪はただ食べて、排泄して、寝るという暮らしをしている。食べるために動物を撃つ。社会がどうとか、人の暮らしがどうとか、あれがしたいとかこれはしたくないとか、そういう欲も思い煩いもいっさいなく、ただ道具を持った動物のような暮らしに読んでいて圧倒される。自分はずいぶんと余計なものを背負って生きているような気持ちになる。
★読みどころ2)圧倒的な自然の描写
北海道の自然の描写、動物の姿、そしてその動物を殺し、皮を剥いで内臓を出し肉を切る、その描写のひとつひとつが圧巻。切り裂いた動物の腹から立ち上る湯気やその匂いを目の前で感じるような文章に圧倒される。熊爪と熊の、食うか食われるかの激しい戦いも臨場感たっぷり。動物を可愛がるとか保護するとか共存するとかではなく、好敵手として正面から対峙する姿は迫力満点だし、現実はこうなのだと伝わってくる。
★読みどころ3)途中からの意外な展開
日露戦争が始まり、里では人の暮らしにさまざまな変化がある。そんな中、熊爪はひとりの目の不自由な女性を山小屋に連れてくることに(その経緯は本編でどうそ)。実は「ともぐい」というタイトルの意味はこの先にある。無骨な猟師が、動物や里の人や女性と交わる中で変化していく物語、と思っていると背負い投げを喰らう。
・著者はこれまで馬や熊、野犬といった動物をモチーフに、人間と動物の生と死を書き続けてきた。そのひとつの到達点。

第170回直木賞受賞作 川崎秋子『ともぐい』
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