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志川節子『アンサンブル』

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★内容紹介
・作曲家、中山晋平が主人公。
・中山晋平といえば、「しゃぼん玉」や「證誠寺の狸囃子」などの童謡や、流行歌では「カチューシャの歌」「ゴンドラの歌」などのヒット曲で知られる、大正~昭和を代表する作曲家。その中山晋平が若い頃、明治末期から大正初期にかけて劇作家・島村抱月の家に書生として住み込んでいた時代の物語。
・気をつけてほしいことがひとつ。帯や紹介文を読むと、「何者でもなかった青年はなぜ名曲を生み出すことができたのか」などと書かれていて、どのようにして偉大な作曲家になったのかという評伝小説のような印象を受ける。が、実はそういう話ではない。これは若き中山晋平が、師匠の浮気問題と夫婦喧嘩に振り回され、ぶちキレるまでの物語。と同時に、劇作家・島村抱月と女優・松井須磨子の恋の物語でもある。
・明治末、晋平が書生をしていた大学教授にして劇作家の島村抱月は、坪内逍遥らとともに新しい演劇を提唱、日本では珍しかった女性の役者を採用し、ロシアの戯曲『人形の家』などで人気を博す。ところがこの『人形の家』のヒロインを演じた松井須磨子と島村抱月は恋愛関係に。それはすぐに噂になり、抱月の妻の知るところとなる。このスキャンダルのせいで坪内逍遥との関係が悪化し、文芸協会を辞め、抱月は須磨子とともに新たな劇団を設立。晋平もそこに参加し、劇中歌「カチューシャの歌」「ゴンドラの歌」などで一躍有名になったが──。
★読みどころ1)師匠の恋愛沙汰にとにかく振り回される晋平
抱月の妻から夫の偵察を頼まれたり、しらばっくれる抱月がこっそり書いていたラブレターを見つけた妻がその証拠として晋平に書写しを命じたり、とにかく作曲家修行などしている場合じゃないくらいこの夫婦に振り回される。島村抱月と松井須磨子のスキャンダルは多くの人を巻き込み、なんとか周囲はふたりを別れさせようとし、坪内逍遥も別れなければ文芸協会から除名するとまで言うが、ついには抱月は大学もやめ、地位を捨てて須磨子と芝居を続けることを決意。そのスキャンダルの一つ一つに晋平が振り回される。
★読みどころ2)そのスキャンダルの中で晋平は何を得たのか。
島村抱月というと、その功績は素晴らしいのにどうしてもこのスキャンダルの方が有名。けれどなぜ彼がそこまで須磨子に執着し、彼女で芝居を続けたかったのかがポイント。芸術に対する師匠の情熱を目の当たりにした晋平が、「カチューシャの歌」「ゴンドラの歌」を作り上げていく。恋は人をどう変えるのか、厳格な師匠が恋の前では実にみっともなくなったり、家族を捨てたりするのをみて、晋平は何を感じたか。もちろん抱月と須磨子の間には恋愛感情はあったろうが、同時に、この人物なら自分の芸術を体現してくれるという強い喜びがあり、それを手放せなかったようにも感じられる。
・何かを作り上げるとはどういうことか、芸術への情熱や使命感が人をどう変えるか。アンサンブルとは少人数の合奏や合唱のことだが、抱月、その妻、須磨子、そして晋平が奏でる激しいアンサンブルに心揺さぶられる一冊。
志川節子『アンサンブル』
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