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坂木司『和菓子のアン』

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★内容紹介
・デパ地下に出店している和菓子屋さんが舞台の、青春お仕事ミステリのシリーズ。第1巻の『和菓子のアン』は2010年に刊行、以来、『アンと青春』『アンと愛情』とシリーズが続き、先々月、第4巻となる『アンと幸福』が刊行されたばかり。
・主人公は、デパ地下に出店している和菓子屋で販売員のアルバイトをしている梅本杏子。第1巻の時点では高校を卒業したばかりで進路が決まらず、たまたま見つけたバイト募集に応募した。杏子という字からアンちゃんと呼ばれているが、ニックネームの由来はもうひとつあって、彼女がかなりのぽっちゃりさんだということ。大福みたい、というところから餡子のアン、という意味も。最初は右も左も分からないアンちゃんだったが、少しずつ仕事とは何かを学んでいく成長小説。
★読みどころ1)和菓子の魅力
物語はどれも一冊に5~6編の短編が入った連作。そのすべてで、その季節ならではの和菓子が登場する。そしてその和菓子の持つ歴史や意味が紹介されるのがとても興味深い。たとえばおはぎとぼたもちは同じもので春と秋で言い換えるのは有名だが、他に五種類の呼び方があるとか、地方によっての違いとか、冠婚葬祭に出される和菓子の意味とか、和菓子ひとつひとつの名前の意味とか。源氏物語に出てくるお菓子もあり、千年前の人と同じものを食べているとアンが感動する場面があるが、まさに和菓子の歴史を感じる物語。
★読みどころ2)和菓子の知識を生かした謎解き
ほとんどの話でちょっとした事件が起きる。クレーマーのような客だったり、妙な注文をする客だったり。それを、このストアの店長が和菓子の知識でずばり解決。たとえば毎週のように和菓子を買いに来るお客さんがいて、その日も四種類の季節の和菓子を注文したが、店長がその中のひとつは今日は買わなくていいのでは?といきなり提案する。その真意は?などなど。あるいは、「こんなお菓子」という客のあやふやな注文からそのお菓子を推測する話なども。
★読みどころ3)デパ地下の舞台裏
路面店ではなくデパ地下というのもポイント。従業員の出勤風景、従業員だけが使えるフロア、早番は朝礼があって、遅番は〆の仕事がある。防火訓練も商品の入荷コントロールもお中元商戦もデパートならでは。繁忙期は他のお店の店員さんと愚痴を言い合ったり、店によって仕事の仕方がまったく違っていたり。お中元商戦の修羅場の真っ最中、アンが貨物用エレベータで他のお店の人と乗り合わせて会話をしたとき、「こんなことがなければ話さなかったであろう人たちと、妙な一体感で毎日つながっている」と感じる場面があるが、さまざまな店が出店しているデパートだからこその交流や発見が多々綴られる。これを読むとデパ地下を見る目がちょっと変わるかも。
★読みどころ4)アンの成長
この和菓子店でアルバイトを始める前のアンは、高校は卒業したものの、やりたいことがない、という状態だった。それがお店での仕事を通して少しずつ世界が広がっていく。クレーマーの客がいたとか、他の派遣社員と比べて仕事ができない自分に落ち込んだとか、あるいは太っているという見た目で辛い目にあったとかの話を、店長や同僚の助けを借りて乗り越えていく。仕事に限らず、あらゆる読者に励ましと元気を与えてくれる。
・読めば和菓子が食べたくなる、デパ地下に行きたくなること間違いなしのシリーズ。
坂木司『和菓子のアン』
最新刊は1870円で販売中です。
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