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白木健嗣『抜け首伝説の殺人』

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★内容紹介
・プロローグはちょっと不気味。女子中学生が学校から帰るのが遅くなり、夜の畦道を歩いている時、空を飛ぶ生首に追いかけられるという恐怖体験で始まる。
・そこから舞台は、四日市にある酒造会社に移る。江戸時代創業という伝統ある酒蔵で当主が惨殺死体で発見される。死体は寝室の布団に寝かされていたが、首がなく、その頭部は少し離れた酒蔵の中に置かれていた。しかもまるで高いところから落ちたかのように、顔の部分が大きく損傷していた。まさか噂の、空飛ぶ生首だったのか……?
・この謎解きに挑むのが、若き人形師の巽藤子。この酒造会社の当主が大事にしていたからくり人形が壊れてしまい、それを作った人形師の孫である藤子がたまたまその日、修復に呼ばれていた。当主が死体で見つかる前夜は、藤子の他に酒蔵の社員たちや同業者など大勢が屋敷内にいたが、お酒が入って深夜まで騒いでいたため、全員アリバイはあるようなないような状態。ただ、少なくとも防犯カメラには、切断した首を酒蔵に運んだ人物は映っていなかった。会社の中のトラブルなのか、それとも繁盛する酒蔵に対する同業者の嫉妬なのか。そしてなぜ首が切断され、離れた場所に置かれていたのか。空飛ぶ生首との関係は?
★読みどころ)ほとばしる四日市愛!
まだこれがデビュー二作目なので文章にこなれていない部分もあるが、謎解きは凝っているしサプライズもどんでん返しも十分。何より、とにかく四日市愛が楽しい。四日市のさまざまな文化や歴史が絶妙にミステリに取り入れられている。たとえば舞台となった酒蔵。四日市は地下水が豊富で、江戸時代から酒造が盛んだった。また、空飛ぶ不気味な生首の発想や、からくり人形のくだりは、四日市に江戸時代から伝わる巨大なからくり人形「大入道」が元になっている。山車に乗った大きなからくり人形で、ろくろ首のように首が伸びる。首が伸びた状態では全長が7メートルを超え、可愛らしさとは対極にあるその見た目は子どもが泣き出すほどだとか。(大入道をモチーフにしたゆるキャラのこにゅうどうくんは可愛い)江戸時代、文化2年に尾張の職人によって作られたと伝わるが、詳細は不明。その「不明」の部分を、小説の中でうまいこと料理している。他にも、ネタバレになるので具体的には言えないが、江戸時代にこの地域で行われていたあることが謎解きの重要な要素になっている。読みながら、四日市ってこういう土地なのか、と知らなかった面がたくさん出てくるし、逆に四日市の人にとっては、馴染みのある場所や出来事がたくさん出てくる。全国的には四日市といえばコンビナートの印象が強いし、伊勢志摩などと比べると小説の舞台に使われることもほとんどないが、工業だけではない、いろいろな文化・風習・歴史があるのだと伝わるのがいい。四日市を見る目が変わる。
・サブタイトルが「巽人形堂の事件簿」なのでシリーズ化の予定があるのかもしれない。ぜひこれからも四日市ミステリ、三重ミステリを期待したい。
白木健嗣『抜け首伝説の殺人』
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