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近藤史恵『間の悪いスフレ』

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★内容紹介
・舞台はフランス家庭料理の店、ビストロ・パ・マル。シェフがふたり、ソムリエひとり、そしてギャルソンひとりの小さな店だが、シェフの腕の良さと暖かな雰囲気で人気のお店。
 このシリーズは、お店に持ち込まれるお客さんの厄介ごとを、シェフお得意の料理の知識を使って解決する人気シリーズで、これが第4巻。著者の近藤史恵さんは、これまでもこのコーナーで何作か紹介してきたが、旅行と美味しいものが大好きな作家さんで、中でもこのシリーズは人気が高い。
・今回は6つの短編を収録。それぞれ料理名がタイトルに入っていて、シェフが問題を解決するのにその料理が意味を持つ。たとえば第一話「クスクスの来た道」には、北アフリカ発祥のクスクスが登場。オペラ歌手を目指して名門の音楽学校に合格した中学生が、両親とオペラを見に行ったときにある違和感を抱き、自分の進路に迷い始めるというもの。その違和感とは何か、それをシェフがクスクスでどう解きほぐすかという物語。
・ただ、第二話から少し雰囲気がかわる。この本は雑誌に掲載された短編が一冊にまとまったものだが、第一話が出たのは2018年の8月。しかし第二話は少し間が空いて、2020年の6月。以降、2020年から2023年にかけて発表された短編が五作並ぶ。つまり第二話以降は、コロナ禍の中でのフランス料理店が舞台になる。休業や営業時間の短縮、お酒を出す時間の制限など、さまざまな制約が飲食店に降りかかり、その中で、このビストロがどうしたかというのが短編の背景になっている。
・たとえば第二話のタイトルは「未来のプラトー・ド・フロマージュ」。ビストロ・パ・マルでも従来のような営業ができなくなり、テイクアウトに対応し始める。そんなとき、決して安くはないフランス料理のテイクアウトを一人分買っていく中学生の少年が現れた。親が忙しくて食費だけ渡されているのかとも思ったが、それにしてもフランス料理?しかもギャルソンがたまたま外に出たとき、河原でひとりでテイクアウトのフレンチを食べているその少年を目撃する……。
・第三話は「知らないタジン」。通常営業ができないなら、料理教室を開こうということに。生徒の大部分が女性の中、ひとりだけ男性が混じっていた。しかしその男性は教室の間、妙に不機嫌そうで……という話。また「モンドールの理由」という短編は、ロシアのウクライナ侵攻により、輸入食材で入手が難しくなったものがある、という話が出てくる。
・そういった時代背景だけではなく、実は中で扱われている出来事もなかなかシビア。悩んだり問題を抱えたりした人たちがどの話にも登場するが、そこには自分でも気づいてなかった差別意識だったり、見栄だったりが指摘される場面もある。また、コロナや戦争ゆえに思うような生き方ができない若い世代が、他の世代と自分を比べて理不尽さに落ち込んでしまう話もある。そんな現代ならではのさまざまな悩みを、ビストロ・パ・マルではすべて料理に喩えながら、やさしく解きほぐしてくれる。どんな料理が、どういうふうに人の悩みを解決するのかも読みどころ。
・コロナ禍の中で飲食店ががんばる姿も堪能できる、シビアだけどとても暖かくて、とにかく美味しそうな短編集です。

近藤史恵『間の悪いスフレ』
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