多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

こざわたまこ『明日も会社に行かなくちゃ』

[この番組の画像一覧を見る]

★内容紹介
・2018年に出たお仕事小説がタイトルを変えて今月文庫になった本です。単行本のときのタイトルは『仕事は2番』。物語の舞台は、とあるOA機器の販売会社。そこで働く六人が持ち回りで主人公になる。
・第一話は総務課で課長補佐になった女性社員。前の課長補佐が夫の転勤についていくため退職し、年功序列と断れない性格が災いして押し付けられたような昇進だった。部下にミスがあれば代表して課長に叱られ、要領が悪いと前の課長補佐と比べられ、同期からは有給を取りやすくしてほしいだの、新人に協調性がないから注意しろだの、勝手な注文や陰口が入ってくる。その新人のミスを主人公がかぶって他の部署に謝罪しても、特に謝ってくるでもなく、休みが欲しいなどと言われる。もういっぱいいっぱいになって、その新人がもう一度同じミスをしたときに叱ったところ、課長補佐にいじめられたと上に訴えてきた。どうすりゃいいのよ、という話。
・第二話は、その総務課の課長。部下の女性たちからバカにされてるのはわかってるし、営業課の課長とトレードしてほしいとまで思われているが、それでも自分の役割をなんとか全うしようとする。だがその営業課の課長が主人公になる話では、彼もまた問題を抱えていることが綴られる。会社では人望があって頼れる上司だが、その分、家庭に大きな皺寄せがきている。
・総務課の女性平社員が主人公の話も興味深い。以前はとても厳しかった総務課の先輩が出産して復帰してきた。かつては、電話は3コールなる前に出ろとか、飲み会に付き合うのも仕事のうちだとか安易に有給をとるななどと言っていたのに、今は子供の保育園の送り迎えのため出勤は遅刻ギリギリ、定時と同時にソッコーで帰り、定時間際に電話がなっても出るふりをして出ないし、子供のことでなんだかんだとやたら休みをとる。もちろん課員全員でサポートすることに依存はないが、あまりに前と違いすぎるし、独身者ばかりに負担が来ることに腹が立ってしょうがない。
・第五話では、第一話の課長補佐をパワハラで訴えた新人社員が主人公となる。結局それ以来休職しているが、実は学生時代にも似たようなことがあり、どうして自分は学校でも組織でもうまくやれないのかなあと悩んでいる。
★読みどころ1)身につまされるエピソードの数々
登場する人たちは皆、何かの板挟みになったり、理想の自分と現実の自分の違いに悩んだり、自分の責任を直視できずに目を逸らしたりしている。立場は違ってもこういう経験は誰しも持っている。精一杯やってるのにうまくいかない、というあたりも含め、共感度はめちゃくちゃ高い。ただポイントは、主人公たちは当たり前だが自分のことしか考えてない。けれど他の話を読むとその人が周囲からどう見られているかが見えてくる。個々の話を読むと主人公に共感してしまうが、一歩引いて考えると、その人の問題も見えてくるという多重構造が魅力。
★読みどころ2)彼らが変わるきっかけ
それぞれみんな、精一杯やってるのにうまくいかないという現状からどう抜け出すか。抜け出す方法はそれぞれ違うが、共通しているのは「自分にとっていちばん大事なものは何か」に気づけるかどうかがポイント。本書が単行本のときのタイトルは『仕事は2番」だったが、それはつまり、そんな仕事はあなたにとって替えの効かないいちばん大事なものなのか?という問いかけ。自分がいちばん大切にしたいと思っているものがあれば、会社でうまくいかなくても別にいいのでは?と同時に、彼女たちの頑張りをちゃんと見ているひともいる、というエピソードもあり、救いがある。
・主人公に感情移入しているときは辛いが、読み終わると気持ちがすっと軽くなる一冊。
こざわたまこ『明日も会社に行かなくちゃ』
双葉社から825円で販売中です。
関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報