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万城目学『八月の御所グラウンド』

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★内容紹介
・短編と中編がひとつずつ収録されており、どちらも京都が舞台。
・2作収録されているうち、メインは中編の「八月の御所グラウンド」主人公は大学生の朽木。夏休み直前に彼女にふられ、旅行の予定もなくなって退屈な8月を送っていた。そんな彼に友人から、草野球の大会に参加して欲しいとの誘いがきた。場所は京都御所の中にある御所グラウンド(実在)。その友人には借金があったため断れず、朽木はしぶしぶでかけていくと、どうもそのチームは寄せ集めらしい。試合はどうにか勝ったものの、6チーム総当たり戦のため、第二試合が二日後にあるという。ところが第二試合当日、メンバーが足りなくなり、たまたまその場にいた中国人留学生のシャオさんや、工場で働いている「えーちゃん」と呼ばれる通りすがりの男性に助っ人に入ってもらうことに。その後も、人が足りなくなると「えーちゃん」の知り合いが来てくれたりしてなんだかんだでチームは勝ち続け、朽木も次第に真剣に野球をやり始めるが、シャオさんがあることに気づいて……。
★読みどころ1)日常の中に潜む奇想天外なファンタジー
万城目学作品の特徴は何といってもその奇想天外さ。草野球大会の描写だけでも十分面白いが、途中で中国人留学生のシャオさんがあることに気づいてからが真骨頂。通りすがりの「えーちゃん」がある人物とそっくりだという。さまざまな写真や状況証拠から、確かに「えーちゃん」とその人は同一人物だと思われるのだが問題は、その人はもうかなり昔に亡くなっているはずの人。さらに「えーちゃん」が連れてきた知り合いは朽木たちと同じ大学生のはずなのだが、その名前は名簿にない。いったい彼らは何なのか、もしも本当に「もう亡くなっている人」だとしたら、なぜ京都の御所グラウンドに現れたのか──というのが読みどころ。
★読みどころ2)今この季節だからこそ味わえる感動
万城目さんはデビュー作『鴨川ホルモー』の印象が強く、京都大学出身でもあるため京都のイメージがあるが、京都を舞台にした作品は『鴨川ホルモー』シリーズの短編集以来16年ぶりとなる。だがこれまでも、大阪を舞台にした『プリンセストヨトミ』では大阪城の歴史を、奈良が舞台の『鹿男あをによし』では平城京を、滋賀が舞台の『偉大なる、しゅららぼん』では琵琶湖にまつわる物語など、どれもその場所だからこそ成立するファンタジーを書いてきた。今回の「八月の御所グラウンド」も、まさに京都の歴史と人々の営みがあってこそ。なぜ、亡くなったはずの人が御所グラウンドに現れたのかという理由はまさに京都の、しかも八月だからこそ成立する物語。もうひとつの収録作「十二月の京都大路上下(カケ)ル」は12月に京都の都大路で開催される全国高校駅伝に出場する女子高生の話だが、この話でもやはり、駅伝を応援する沿道の人々の中に、いるはずのない時代の人がいるという話。この二作は互いに関係のない独立した話だが、続けて読むと、近代以降の京都の歴史が垣間見える。京都に限らず、どの場所も、時代ごとの記憶が層のように重なっているのだと感じられる。
・ぜひ八月に読んでほしい短編集。
万城目学『八月の御所グラウンド』
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