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平谷美樹『虎と十字架』

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★内容紹介
・サブタイトルは「南部藩虎騒動」。今の岩手県から青森県にかけてにあたる南部藩が舞台。江戸時代初期、徳川家康はカンボジアから贈られた虎2頭を、南部藩主の南部利直に下げ渡したもちろん将軍からの拝領なので南部藩ではこの虎を大事に扱った。──という史実をもとに作られたフィクション。
・物語は、城内にあった虎部屋から2頭の虎が逃げ出したという大事件で幕を開ける。城外に逃げ出した1頭はなんとか確保することができたが、城内をうろうろしていた1頭は次期藩主である若殿によって射殺されてしまう。おりしも、本来の次期藩主だった長男が死去したばかりで家の中がごたごたしているとき、将軍拝領の虎を死なせたとあってはどんなお咎めがあるかわからない。藩士たちはなんとか穏便に済ませようとする。
・ところが虎の脱走の理由を調べていた目付けの米内平四郎は、おかしなことに気づく。虎番が鍵をかけ忘れたのだろうと思っていたが、責任をとって切腹したはずの虎番の死体を調べると、切腹ではなく殺人だったことが判明。さらに虎部屋の中に用意された虎の食事はいつもは鹿などの動物なのに、その日は二体の人間の死体が入れられていた。その死体は、拷問を受けて死んだキリシタンの女ふたりらしい。さらに不思議なことに、一体は虎によって食いちぎられていたが、一体は手をつけられないままだった。しかもその死体は、見張りが目を覚ました隙に消えてしまった。さらにさらに虎部屋の中からは、若殿の笄(こうがい)が発見される。
・虎の脱走に人為的なものを感じた平四郎は調べを進める。平四郎が推理した可能性は5つ。キリシタンたちが仲間の死体を取り戻すため虎を逃した、あるいはキリシタン弾圧派が、よりキリシタン政策を厳しくするためキリシタンの仕業に見せかけた。以前より狩が得意な若殿が、虎を撃ってみたくて逃した、あるいは若殿が家を継ぐことを良しとしない一派が、若殿の仕業に見せかけた。将軍拝領の虎を逃すという不祥事を起こし、お家転覆を目論んだ。
・はたしてこの中に真相はあるのか。真犯人は誰で、その狙いは何なのか──。
★読みどころ1)時代ミステリとしての面白さ
次々出てくる手がかりや容疑者をひとつひとつ検討していくが、その中には偽の手がかりも混じっていたり、身近な人もどこまで信じていいかわからない。ミステリはまず事件が起きて、物語が進むにつれてだんだん答えが絞られていくが、本書は読めば読むほど謎が膨れ上がる。それがラストになって急転直下、ものすごく意外な真犯人が出たときのサプライズには大興奮。また、人物もいい。探偵役の平四郎は頭が切れるが、飄々としていてユーモラス。他の脇役たちも魅力的で、悪役っぽい家老たちもそれぞれに事情があって憎めない。とても生き生きとした、エキサイティングなミステリになっている。
★読みどころ2)史実をうまく取り入れた展開
南部藩が虎を拝領したのは事実。虎の脱走や射殺はもちろんフィクションだが、それが実に巧妙に当時のさまざまな史実につながっていく。たとえば当時の奥州でのキリシタン事情だったり、まだ江戸時代初期の、戦国の世を知っている世代から知らない世代へと移り変わる時代の様子だったりという、さまざまな「史実」が巧妙に絡み合って「あったかもしれない」物語になっている。
・時代小説の醍醐味と、その時代の空気がたっぷり感じられる一冊。

平谷美樹『虎と十字架』
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