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エラリー・クイーン『Xの悲劇』

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★内容紹介
・書かれたのは1932年。二度の大戦の間、いわゆる戦間期と呼ばれる時期で、クイーンやクリスティなど、アメリカやイギリスで名探偵が活躍する本格ミステリの傑作が多く書かれた時代。
・著者のエラリー・クイーンは1929年にデビューしたアメリカのミステリ作家。実はコンビ名で、フレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーの二人組。彼らはもうひとつ、バーナビー・ロスというペンネームも持っていて、その名前で「Xの悲劇」から始まる四部作を発表している。発表の時点ではバーナビー・ロスがエラリー・クイーンだとは明かされていなかった。
・ニューヨークの市電の中で殺人事件が起きたが、捜査は難航、NY市警のサム警視が、元俳優で今は名探偵として名高いドルリー・レーンのもとを訪れた。混雑する電車の中で、株式仲買人のポケットに何者かがニコチンのついた針がささったコルクを入れ、それに触れた仲買人が死亡したという。警察は乗客全員を調べたが手がかりは発見できなかった。ドルリー・レーンは話を聞いただけで犯人の見当はついた、というが確証がないのでまだ名前は言えないと言う。ところがその後、事件の鍵を知っているという人物からサム警視のもとに連絡が入る。待ち合わせの場所にサム警視とレーンが向かったが、そこにあったのは死体。顔が潰されて誰だかわからなかったが、遺留品や証言から、その市電の車掌だと結論づけられた。彼が警察に情報を流す前に真犯人が口封じをしたに違いない。捜査は暗礁に乗り上げるが、ふたつの殺人の両方の現場にいた人物がおり、その人物が犯人ではないかと思われた。しかしその人物も殺される。そしてその死体の左手の中指は人差し指の上に捻じ曲げられ、Xの形を作っていた。これはどんな意味なのか──?

★読みどころ1)圧倒的なフェアプレイとサプライズ
クイーンの特徴はフェアプレイ、つまり真相を推理する手がかりがちゃんとぜんぶ読者に提示されること。クイーンの他の作品には解決編の前に「読者への挑戦状」があって、手がかりは揃ったぞ、きみにわかるかな?みたいなことが書かれてある。本作は別名義の作品なので挑戦状はないが、それでも手がかりはすべてフェアに提示され、解決編を読んだときには、「その場面を読んだとき、なぜ気づかなかったんだろう」と不思議になるくらい。しかも解決編が50ページくらいあって、レーンの説明で謎がひとつずつ解かれていく過程はワクワクが止まらない。最後の一文まで気を抜けない、圧巻の解決編。

★読みどころ2)ドルリー・レーン四部作の最初の作品
このあとドルリー・レーンシリーズとして「Yの悲劇」「Zの悲劇」「ドルリー・レーン最後の事件」と続き、どれも「意外な犯人」を追求している。中でも「Yの悲劇」がめちゃくちゃ有名なので、それだけは読んだという人が多いが、有名すぎて、読んでなくても犯人知っているという人も。この「Xの悲劇」は、レーン初登場作で彼の個性がよく出ており、さらに「意外な犯人」という点でも論理的推理という点でも「Yの悲劇」に勝るとも劣らない傑作。1930年台のアメリカの風俗や文化の描写も興味深い。ぜひご一読を。

エラリー・クイーン『Xの悲劇』
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