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第169回直木賞受賞作 垣根涼介『極楽征夷大将軍』、永井沙耶子『木挽町のあだ討ち』

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垣根涼介『極楽征夷大将軍』
★内容紹介
・鎌倉時代末期、執権・北条家の独裁政権に、鎌倉幕府の信用は地に落ちていた。やがて後醍醐天皇が倒幕を決意、足利家にも北条氏討伐の勅命が下る。ただ足利家を継いだ長男・尊氏は怠け者でやる気がない。弟の直義(ただよし)は、そんな兄を宥めたり励ましたりして、北条氏討伐で戦果を上げる。
・ところが北条氏が滅ぶと、後醍醐天皇は足利に次の世を任せるのではなく、自分で政治をやると発表(建武の新政)。直義と足利家家臣・高師直(こうのもろなお)は騙されたと怒り、頼りない尊氏は抜きにして自分たちで新しい幕府を作ろうとする──。
★読みどころ1)向上心もやる気もない足利尊氏がなぜ天下を取れたのか
論理的で真面目な弟と、不真面目でやる気のない尊氏の対比がいい。のし上がっていく過程でも、弟や家臣の高師直がすごく優秀で彼なしでは実務は回らないのに、ここ一番で尊氏が神がかった采配を見せつける。実際、尊氏は面倒くさがりで、妙な逸話も多い。これでどうして天下を取れたのかは今ひとつわかっていなくて、こうだったのではないかという解釈を、論理派の弟と家臣を通して見せる方法が面白い。
★読みどころ2)尊氏の性格を現代人に重ねて見せた構造。
特に向上心もなく、ただ日々を安穏と生きられればいいという尊氏の考え方を、著者は現代人に重ねて描いている。南北朝時代というのはめちゃくちゃ複雑で誰が敵で誰が味方がわかりにくいが、そこを尊氏のキャラを中心に据えて整理した一作。

永井沙耶子『木挽町のあだ討ち』
★内容紹介
・江戸で芝居小屋が集まっている木挽町で、仇討ち事件が起きた。まだ元服前の美少年の若衆・菊之助が、父を殺して逃げていた元下男を見事に討ち取った。それは木挽町の語りぐさとなる。
・それから2年後、菊之助の知り合いを名乗るひとりの武士が木挽町を訪れ、仇討ちの現場にいた人々を回って、当時の話を聞かせてほしいと頼む。すでに決着した一件の何を、彼は調べようとしているのか?それだけではなく、その武士は聞き込みをした相手のこれまでの人生も聞かせてほしいという。その目的は?
★読みどころ1)語り手たちの人生模様
武士が聞き込みをしたのは、元吉原で幇間をやっていたという木戸芸者(木戸口で配役などを読み上げたり役者の声色を使ったりして宣伝する仕事)、一座に殺陣を指導している元武士、火葬場で育ったという衣装係、息子を亡くした小道具職人、そして筋書き(芝居の脚本)を書いている旗本の次男。なぜ彼らが芝居町で働くことになったのか、そのドラマが読ませる。皆、それぞれ辛い経験をしてきたとき、ひょんなきっかけで芝居に触れた。芝居というフィクションが彼らを救った。嘘の話だから響くものがある、という物語の力が本書では綴られる。
★読みどころ2)仇討ち事件の意外な真相
五人の関係者から話を聞くうちに、2年前の仇討ちの意外な真相が浮かび上がる。時代ミステリとしても、読ませる作品。

垣根涼介『極楽征夷大将軍』は文藝春秋から2200円
永井沙耶子『木挽町のあだ討ち』
新潮社から1870円で販売中です。
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