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紅玉いづき『サエズリ図書館のワルツさん』

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★内容紹介
・舞台は地方都市のさえずり町。そこにはサエズリ図書館という私立の図書館があった。著名な脳外科医にして書物のコレクターだった教授が亡くなったあと、その膨大な蔵書を保管するために作られたが、通常の図書館と同じように貸し出しサービスが受けられる。
・1巻ではその図書館を訪れる利用者の物語が、2巻ではそこで働く人々の物語が、それぞれ連作で綴られる。
・たとえば1巻の第一話は、本を読む習慣がまったくないカミオさんという女性の話。その日の彼女は朝からアンラッキーなことばかり続き、へとへとに疲れていた。仕事の帰りに食事をしようとしたらお店の駐車場は満車。そこで、隣の図書館の駐車場にちょっとだけ停めさせてもらおうとしたところ、他の人の車に接触してこすってしまう。怒られるのを覚悟して図書館の受付に申し出たところ、図書館の責任者も、車の持ち主も、まずカミオさんにケガがなかったかを心配する。イヤなこと続きで心が疲れていたカミオさんはその優しさに思わず泣き出してしまうが、そんな時には本を読むといいと言われ、一冊の本を勧められた──。
・という感じで、いろんな人と本の関わりが紡がれていくが、実はこのシリーズのポイントは他にある。それは、これが現代の話ではない、ということ。
★読みどころ1)少しずつ与えられる違和感と、この世界の正体
最初はごく普通の図書館と登場人物のように見える。だが読み進めていくと、ちょっとずつ「ん?」という表現が出てくる。たとえば蔵書に対して「戦後の本だからわかりやすい」という表現があったり、あるいは「自分が子供の頃はまだ教科書があった」というセリフもある。紙の本はすごく貴重で、学校の図書室などでは紙の本はケースに入れられて展示されているという話も出てくる。じゃあ、これは未来の話で、本はすっかり電子書籍になってしまって紙の本がめずらしくなった時代なのか──というと、それはそうなのだが、それだけではない。たとえば、図書館をはじめ市内ではしょっちゅう停電があるらしい。電車は間引き運転され、便数が減っているらしい。そして登場人物が「都市部(シティ)へ行く」というと、他の人がすごく心配したりもする。未来は未来だが、どうも平和で安定した世界ではなさそう。いったいここはどんな世界なのか、それがわかってくると物語の色ががらりと変わる。
★読みどころ2)2巻で描かれる、図書館で働く人々の様子
何があったのかは1巻で読んでもらうとして、要は、紙の本は絶滅しかかっている世界。そこで敢えて紙の本を保存する図書館で働く人の話が2巻では描かれる。その中に、千鳥さんという女性が出てくる。彼女は本の修復師になりたいと思い、今ではほとんどいなくなった修復師に弟子入りしようとするが、断られる。もう本はデータになってしまった、本という形がなくなってもデータがあれば中身にアクセスできる。そんな世界で本を修復する仕事についてどうする?こういった問題は本に限らず、文明が進化する中で出てくるもの。自分ならどうするかなんと答えるかを考えながら読んでほしい。
・この物語は決して電子書籍を否定するものではないが、そんな時代に、本という「もの」で持つことの意味と価値を考えさせてくれるシリーズ。
紅玉いづき『サエズリ図書館のワルツさん』
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