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米澤穂信『さよなら妖精』

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★内容紹介
・2004年に出た、米澤穂信さん初期の名作です。
・米澤さんは岐阜県出身、2001年に青春ミステリの『氷菓』でデビュー。ティーンズ向け文庫のレーベルからの出版だったため、初期は若い層を中心に人気となる。その後、推理作家協会賞などを経て、2022年に『黒牢城』で直木賞を受賞。当代を代表する人気作家です。この『さよなら妖精』は単行本として初めて一般向けに出された作品。
・物語の舞台は1991年4月の終わり。高校三年生の守屋くんと太刀洗さんが、学校帰りに雨宿りしている外国人らしき少女と出会う。傘を貸して少し話をしたところ、彼女はマーヤと名乗り、ユーゴスラビアから日本を知るため2ヶ月の予定でやってきたという。ところがホームステイさせてくれるはずの人が亡くなっていて、今日の宿にも困っている。守屋くんたちは、同級生に旅館の娘がいたことを思い出し、旅館の手伝いをすることでしばらく置いてもらえるよう頼んだ。
・無事に滞在先が決まったマーヤは、守屋くんと太刀洗さん、旅館の娘の白河さんらと一緒に次第に親しくなる。彼女は日本の文化に興味を持ち、あれは何だ、どういう意味があるのかと尋ね、それに守屋くんたちが答えるという毎日を送っていた。ところがそろそろ2ヶ月のホームステイ期間が終わろうとする1991年6月27日、ユーゴスラビア連邦を構成する国家のひとつ、スロベニアが独立を宣言し、ユーゴスラビア連邦軍が武力でスロベニアに侵攻するという事態になる。この戦争は10日間ほどで終結したが、ここからユーゴスラビア紛争が広がっていく。今帰るのは危ない、と止める守屋くんたちに対し、マーヤは自分の国だからと行って予定通り帰国した。
・マーヤの帰国後、守屋くんたちはマーヤがユーゴスラビア連邦のどの国に帰ったのかわからないことに気づく。どうも意図的に隠していたらしい。彼女の安否が知りたくて、交わした会話の中からなんとか彼女の国を特定しようとするが……。
★読みどころ1)青春ミステリの前半と、シビアな後半の二部構成
前半は日本文化に興味津々のマーヤの疑問に守屋くんたちが答えるという話が続くが、ちょっとした謎解きもあって、とても楽しい。その一方で、自分たちもまたユーゴスラビアについて何も知らないと言うことを自覚する。日本とは異なる歴史や文化の存在を知り、高校生たちの世界がぐんぐん広がっていく様子はまさに青春小説の醍醐味。自分がいかに知らなかったかを自覚するところから学びが始まることがよくわかる。そして後半になってから、友達のいる国で紛争が始まる、という厳しい現実に直面する。
★読みどころ2)読者が未来を知っているという構成
この本が出たのは2004年。すでに読者はユーゴスラビアが分裂したことを知っている。マーヤは、親や祖父母はセルビア人、スロベニア人、クロアチア人だが、自分はユーゴスラビア人であり、自分の世代が「ユーゴスラビアの文化」を作っていくという夢を持っている。それが叶えられないことを読者は知っていて読むのが切ない。
・遠い国の紛争、戦争をただのニュースとしてとらえるか、身近にとらえるか、今こそ読み返したい作品です。
米澤穂信『さよなら妖精』
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