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西條奈加『隠居おてだま』

2023年06月15日(木)

カルチャー
★内容紹介
・『隠居すごろく』(2019年4月紹介)の続編です。
・まずは前作の復習から。主人公は還暦を機に隠居暮らしを始めた老舗糸問屋の主人、徳兵衛。家を出て隠居用の家を買い、ゆっくりのんびり過ごすはずだった。しかしこれまで商売一辺倒だった徳兵衛には趣味がない。退屈をもてあましていたところにやってきたのが八歳の孫の千代太。この千代太がもちこんだ厄介ごとのせいで、徳兵衛の隠居生活は思わぬ方向に転がり、はからずも新たな商売を始めることに──という話。いわば江戸のセカンドライフ物語だが、還暦を過ぎて新しい出会いがあり、まったく新しいことに挑戦する面白さと、これまで培ってきたことがそれに生かせる、つまりこれまでの人生がちゃんと自分を作ってくれているという喜びが描かれていて、大ヒットした。
・今回の『隠居おてだま』は、その続編。前作はセカンドライフがテーマだったが、今回のテーマは家族。前作で徳兵衛が始めることになった仕事のため、彼の家には何人かの女性の職人が通ってくる。また、家が貧乏で寺小屋にいけない子供たちのため、読み書きを教えたりご飯を食べさせたりもしているので、彼の家には子供も集まってくる。そんな子供たちの中には、親が夫婦分かれしているところも多い。また、職人にもそれぞれ家庭の事情がある。一度は出て行った父親が戻ってきたはいいが、前の女と切れてないらしいとか、離れて暮らしている母親が自分を引き取りたいと言ってきたとか、そういう現代にも通じるような家族の問題が描かれる。
・もうひとつ、本書のメインは、徳兵衛の娘の縁談。着道楽で着物に贅沢をする一方で家のことは何一つできない娘だが、そんな娘に恋人ができた、しかももうお腹に子供がいるという。そんなことが徳兵衛にばれたら勘当モノなので、他の家族がどうすればいいか策を練る。当の娘は、その恋人と一緒になりたいという気持ちはあるものの、相手は長屋ぐらしの飾職人。到底今までのような、上げ膳据え膳で欲しいだけ着物を買えるような暮らしは続けられない。でも子供を産まないとか手放すとかは考えられない、という。娘の将来はどうなるのか、恋はどうなるのか、そして何よりこういうことを絶対許さない徳兵衛をどう説得するのか──徳兵衛には秘密にしたまま、家族のある作戦が動き始めた──。
★読みどころ)いろいろな家族の形
堅物で頑固な徳兵衛に、妊娠と結婚の順番が違った上に相手は職人というこの娘の一件をどう納得させるのか、他の家族が結託している様子が読みながらにやにやしてしまうくらい楽しい。だが言い換えればそれは、徳兵衛だけが蚊帳の外に置かれているということ。本当にその方法でいいのか?並行して描かれる、職人や子供たちの家族の問題が実はポイント。それぞれ徳兵衛の家とは違う、庶民ならではの家族の問題が描かれる。その問題は様々だが、どれも「良かれと思って」やってることが、実は相手にとってはそうじゃない、という共通点がある。徳兵衛はじめ、それぞれの家庭がどう問題を解決していくのか、家族にとっていちばん大事なものは何なのかを考えさせてくれる。

西條奈加『隠居おてだま』
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