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朝倉宏景『サクラの守る街』

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★内容紹介
・サクラ警備保障株式会社は、六年前に大きな不祥事を起こした。現金輸送に携わる警備員が守るべき現金3億円を盗んで逃げた。当時の社長は、謝罪と経営立て直しに追われ、
疲労で事件から10ヶ月後に亡くなってしまう。
・それから六年が経ち、今は前社長の長男が会社を継いでいる。立て直しのため、先代が絶対にやらなかった、警察OBの受け入れを敢行。そのため仕事先も信頼も徐々に盛り返してはきたが、その一方で、警察がらみの義理で問題のある元警官を受け入れざるを得ないことも。先代社長の次男は人事部に所属しており、問題のある社員を気にかけているが……。
・物語には四つの話が入っており、それぞれ警備員を主人公に、彼らがどんな仕事をして何を守ろうとしているのか、その仕事はちゃんと完遂できるのかを描いていく。
★読みどころ1)警備業という仕事
警備業には1号業務から4号業務まで、4つの種類がある(ということを本書で初めて知った)。1号業務は、施設警備。百貨店とか病院などの施設の警備。不審者や危険物のチェックのほか、美術館などでは展示品の警備も行う。2号業務は交通誘導と雑踏警備。工事現場の交通誘導やお祭りなどのときの雑踏の警備。3号業務は運搬警備。現金や貴金属などを運ぶ際の、盗難や事故を防ぐ。4号業務は身辺警備、いわゆるボディガード。この物語ではそれぞれの業務を舞台に、ひとりずつ主人公が持ち回りで登場する。たとえば、3号業務で現金輸送車に乗ることになった新人警備員。彼はもともと半グレで傷害事件をおこし、保護観察が明けたところ。会社としては採用したくなかったが、実は会社の顧問をしている警察OBの息子なので断れなかった。本人は真面目にやろうと思っているが、かつての仲間が
彼の今の仕事を知って近づいてくる……。また、2号業務で工事現場の交通誘導をしている85歳の男性の話もある。さすがに高齢で会社はそろそろ引退を打診するが、本人は頑としてやめたくないという。この2号業務は定年後の再就職で就く人が多く、主人公も元教師。ところがある日の現場で教え子と出会って……。他に、ストーカーや痴漢から女性を守る、女性のボディガードの話や、美術館の警備員の話も。どれも警備の仕事のリアルが描かれ、こんなふうに仕事をしているのか、警備にはこんな決まりがあるのか、などが興味深く綴られる。
★読みどころ2)それぞれの警備員の人間模様
4人の主人公はいずれもそれぞれ悩みや問題を抱えている。現金輸送に携わる若者は過去の悪い仲間が脅しにきたり、高齢の警備員はさすがに限界を感じていたり。また、女性のボディガードは、正義を守りたくて警備員になったのに、ボディガードの仕事は依頼者を守ることであって、必ずしも依頼者が正義の側とは限らないと言われ、考え込んでしまう。そんな彼らが、いったい自分は何を守りたいのか、何のために守りたいのかを考え、道を見つける様子が実に感動的。読者も、自分だったらどうするかを考えずにはいられない。
★読みどころ3)守るとは何か、というテーマ
 警備員には制約が多い。拳銃も持てないし逮捕権もない(その理由も興味深い)。ただ警察にはできないことがひとつある。それは「取り返しのつかない事態になる前に防ぐ」ということ。何も起きないのが当たり前なので、表立って感謝されることはあまりないが、こういう人々のおかげで守られているものが身近にたくさんある、ということを思い出させてくれる。
・街で警備員さんの姿を見たら、思わず応援したくなるような一冊。
朝倉宏景『サクラの守る街』
講談社から1980円で販売中です。

 
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