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下村敦史『ガウディの遺言』

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★内容紹介
・舞台は1991年のバルセロナ。主人公は父と一緒にバルセロナで暮らす日本人女性の佐々木志穂。父は彫刻家で、今はサグラダ・ファミリアの聖堂で石工のひとりとして働いている。ある日、父が夜中にでかけたきり帰ってこないのを心配した志穂は探しにでかけたが、なんとサグラダ・ファミリアの尖塔に死体が吊るされているのを発見してしまう。その死体は父の友人のアンヘルという石工。そしてそのまま父は姿を消してしまった。一度だけ父から電話が来たが、自分の無事と、「サグラダ・ファミリアとガウディには近づくな」とだけ言って切れてしまった。警察は志穂の父を重要参考人として追う中、父の無実を信じる志穂は手がかりをもとめてサグラダ・ファミリア建設にかかわる人々を調べ始める。その過程で、ガウディが残したらしいある物を巡る陰謀に巻き込まれていって……。
★読みどころ1)バルセロナとガウディについての興味深い蘊蓄がたっぷり!
派手な殺人事件で幕を開けるが、そこからは志穂が聞き込みをした建設関係者がガウディやサグラダ・ファミリアについていろいろ語る内容が実に興味深い。たとえばガウディは設計図を信頼しておらず、模型を作ってそれをもとに建設を進めたとか、完成予定の構造はそれぞれの場所ごとに物語があるとか、さらにはスペイン内戦で模型や資料が失われてしまい、口伝えやわずかなデッサンなどから再現が試みられたといった、サグラダ・ファミリアやガウディについての、さまざまな情報がたくさん出てくる。さらにバルセロナとはどういう土地なのか、バルセロナのあるカタルーニャ州の苦難の歴史や現代にも続く民族対立の様子も紹介されたり、
知らなかったことがたくさんあって、とても読み応えがある。サグラダ・ファミリアだけでなくカサ・ミラやグエル公園などガウディの手がけた有名な場所が次々と舞台になり、旅情ミステリの趣もたっぷり。
★読みどころ2)そんな現地の歴史や情報がミステリにからんでくる
あまりにガウディやバルセロナの話が面白くて殺人事件の方は展開が遅く、うっかり殺人を忘れそうになるが、実はそれが著者の策略。興味深い蘊蓄として読んでいたガウディやバルセロナの話の中に実は大事な伏線があったり、そこで出てきた情報がどれもうまくミステリにからんでくるので油断できない。
★読みどころ3)なぜ1991年なのか。
現代ではなく1991年というのがポイント。実はこの時代じゃないと書けないミステリ。このあとバルセロナとサグラダ・ファミリアにはある変化がある。読めば「だから1991年なのか」というのがわかるし、「1991年当時はこうだった」のが現代はどうなっているか、
ネットで画像を見ながら読むといっそう楽しめる。
・バルセロナに行ってみたくなるとともに、土地の歴史についても考えさせられる一冊。
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