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諸田玲子『女だてら』

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★内容紹介
・物語の始まりは江戸で辻斬り事件が起きたこと。遺体を調べたところ筑前国秋月藩の関係者ではないかと思われた。しかしいろいろと不審なことがあり、幕府の若年寄は秋月藩の探索を命じる。一方、その秋月藩では、殿様の嫡子の急死し、養子をとることになった。しかしその養子問題をめぐり、藩主と、一部の家臣が対立。江戸屋敷で藩主が家臣たちに軟禁されるという事件が起きていた。それを知った国元の藩主派は、縁のある公家を通して幕府に知らせようとする。しかし下手に藩士が動けば、反対派から妨害される。そこで女性ならということで、藩の儒学者の娘である主人公、原みちが密書を託された。だが公家との面会や関所の詮議は男の方が都合がいいので、みちは神戸で男装し、そこからは弟の名を借りて、男として旅を続けることに。無事に密書を江戸に届けることができるのか?
★読みどころ1)史実を組み合わせてフィクションを創造
原みちさんは実在の人物。当時としては珍しい女性の漢詩人で、号は原采蘋(はら・さいひん)。実際に男装をして日本中を旅し、漢詩を作った人物。彼女に会った当時の詩人や知識人の記録にも多く残っており、それによると大柄で性格は豪快、酒好きで男装の似合う人物だったという。原采蘋は旅日記を残しているが、ある年、秋月藩を出てから神戸まで行ったところで日記が途絶えている。その翌年、江戸にいることがわかっているが、その間の行動は不明。一方、その頃ちょうど秋月藩ではお家騒動が起こっていた(史実)。諸田玲子さんは、この「男装の放浪詩人・日記の空白・お家騒動」という3つの史実をまるで落語の三題噺のようにつないで物語を作っている。もちろん本書はフィクションだが、旅と男装に慣れた原采蘋が秘密のミッションを託され、状況に応じて男と女を使い分けながら江戸を目指したとすれば、日記の空白も説明がつくしお家騒動という背景にもあっている。わかっている史実から思いがけない物語を生み出す、小説家の発想力とテクニックがすごい。
★読みどころ2)エキサイティングな冒険活劇とロードノベル
原采蘋を出すなら、男社会だった漢詩の世界で実績を残した女性詩人という話になりそうなところを諸田さんはそうせず、完全なエンターテインメントに仕上げてきた。見書を託され旅をするうちに、敵対勢力がその存在に気づき、妨害工作をしかけてくる。途中で道案内についてくれた人物がいるが、これも信じていいのかどうかいまひとつわからない。罠があったり騙し騙されが続いたりで、スパイ小説のような興奮がある。さらに、男のふりをしているみちを好きになった女性に迫られたり、逆にみちがある人物に恋心を抱くが男だと思われているので思いを伝えられなかったりのロマンスも。また、神戸から江戸へ向かう道中は、熱田の宮の渡しを船で渡ったり、大井川の川渡しや峠越え、宿場町の様子など、旅の物語としても読み応えがある。
・ここいちばんで、みちが男装の女性だというのが効いてくる場面もあり、史実を見事に取り入れたエキサイティングな時代小説です。

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