多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

菰野江名『つぎはぐ、さんかく』

2023年02月16日(木)

カルチャー
★内容紹介
・主人公は、お惣菜とコーヒーの店を営んでいる二十代の女性、ヒロ。ひとつ上の兄の晴太と一緒に店を切り盛りするほか、中学三年生の弟の蒼との3人暮らし。店を開いてからはまだ一年だが、少しずつ常連客もでき、経営も落ち着いてきた。そんなある日、蒼が三者面談で高校には行かない、と言い出す。調理師の専門学校に行きたい、寮のある学校に入って家を出たいと言う蒼に、ヒロは激しく動揺する……。
★読みどころ1)三きょうだいの事情
と、これだけではまだ何の話かわからないと思うが、読み進むうちに読者は少しずつ違和感を覚えるはず。末っ子の蒼はまだ中学三年なのに、なぜ二十代の兄・姉と3人で暮らしているのか?三者面談に兄や姉が来る?親はどうしたのかな?と。また、ヒロも、お客さんとうまくしゃべれない、ふたりのお客さんに並行して対応できないといった描写が出てくる。最初は人見知りなのかなと思っていたが、どうもそれだけではなさそう。さらに、寮のある学校に行って家を出ると言った蒼に対する、ヒロの激しすぎる動揺や執着、晴太は鷹揚にかまえているがやはり何か思うところはあるようで、どうもこの3人には何か事情がありそうだぞ、というのがだんだんわかってくる。3人の環境や過去が少しずつ明らかになる過程が、まず第一の読みどころ。少しずつヒントが出され、そういうことだったのかと納得し、けれどまだ他にも疑問があって、それがわかって……というのが繰り返される中で、3人個々のドラマが浮かび上がる。
★読みどころ2)家族の形、というテーマ
なぜ3人で暮らしているのか、親はどうしたのかというのは読んでいただくとして、実はこの3人にはそれぞれ、自分が望めば、他に暮らせる家がある。それでも3人で暮らすことを選択し、お惣菜屋を初め、兄と姉は年の離れた弟を育ててきた。それは彼らなりに幸せになろうと戦った結果であり、一般的な家族の形とは違っても、幸せのために勝ち取った形。家族の形とは押し付けられるものではなく、選べるものなのだということが伝わってくる。
しかしヒロにとっては、ようやく勝ち取った家族なので、その形が変わることが受け入れられない。
★読みどころ3)家族とともに個人としての自立を描く
将来を決めた蒼を見てヒロは自分の過去と向き合い、晴太の妹、蒼の姉としてだけではない自分をもう一度見つめ直す。家族の形は選べるけれど、それは依存し合うのではなく、それぞれが個人としてちゃんと立っていることが必要なのだと伝えてくる。家族しか見えていなかったヒロだが、合間合間に、お店の常連さんが登場したり、ヒロに料理を教えてくれた女性が登場したりと、実はヒロが気づいていないだけで、共同体の中のつながりが描かれているのもポイント。このつながりの中ならきっと大丈夫だととても希望に溢れたラストになっている。
・お惣菜屋さんの料理やコーヒーの描写も抜群で、お腹の空く一冊でもあります。

菰野江名『つぎはぐ、さんかく』
ポプラ社から1760円で販売中です。
関連記事
角田光代訳、紫式部『源氏物語』 西山ガラシャ『おから猫』 高森美由紀さんの『小田くん家は南部せんべい店』 畠中恵『まんまこと』シリーズ 水庭れん『うるうの朝顔』

番組最新情報