多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

一穂ミチ『光のとこにいてね』

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★内容紹介
・主人公はふたりの女性。ふたりが小学校2年生のときから話が始まる。医者の家庭に育ち、お嬢様学校の附属小学校に通う結珠(ゆず)は、ある日、母親に連れられて古い団地を訪れる。母はとある男性の部屋へ入って行き、30分、外で待っているようにユズに告げる。外に出たユズは、団地の向かいの棟に住む少女、果遠(かのん)と出会った。果遠は結珠と同じ小学2年生で、母親と二人暮らし。生活環境のまったく異なる二人だったが、結珠の母親がその団地を訪れる週に一回、30分だけ一緒に遊んで交流を深めていく。しかし、ある日を境に、母親はその団地通いを突然やめた。その前に果遠と会ったときに、ある約束をしていた結珠は、その約束を果たせないまま、ふたりの付き合いは途絶えてしまう。
・それから8年後、結珠は付属の高校に進学。すると高校からの外部入学生の中に果遠がいた。お互い、相手を覚えていることは物腰から想像できたが、結珠にはすでに出来上がった友達関係があり、果遠は外部入学であることに加え、かなりの美少女に成長していたこともあってクラスでは一目置かれる孤高の存在となる。なんとなく無邪気に再会を喜ぶきっかけもなく、互いに遠巻きにしていたが、たまたまふたりで話す機会があり……。
・その後、あるきっかけでふたりはまたも離れ離れに。そして14年後、29歳になり、それぞれ結婚して家庭を持っていたふたりは、偶然の再会を果たす。
★読みどころ)ふたりのヒロインの関係
出会った頃からふたりには、明確な社会的格差があった。子供の頃は、あまりに相手が自分と違いすぎて話が通じないことも多々あったが、それがどこから来ているのかは気づかない。ただ、ふたりには共通点があった。それが母親との関係。本人たちは幼くて気づいていないが読者には、どちらの母親もとても問題のある人物であることがわかる。だが幼いふたりにはそれがわからず、母にどう接していいかわからないモヤモヤを抱えている。それが高校で再会したときには二人それぞれ少し大人になっていて、互いの環境が違うこともわかっていて、親しくしていいのかという迷いが生まれる。けれど幼い頃の、相手の心の中を知っているのは自分だけという気持ちもある──という、とても繊細な結びつきが描かれる。ふたりはずっと一緒にいたわけでもなく、離れている間に連絡を取り合うこともない。それぞれの人生に、それぞれ悩みや問題があって、それぞれ家族と一緒にそれに向き合っている。けれど子供の頃の何気ない会話の一言をずっと覚えていて、それがことあるごとに支えになったり、子供の頃に相手からもらったものを結婚してからもずっとお守りのように持っていたりする。この結びつきは何なのか、恋愛のようでもあり友情のようでもあり連帯のようでもあり、とひとつの名前で表すのがとても難しい。強いて言うなら、運命の相手。その微妙な魂の結びつきを物語で味わってほしい。
・女性二人の運命の出会いを描いた、とても感動的な物語。
一穂ミチ『光のとこにいてね』
文藝春秋から1980円で販売中です。

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