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東山彰良『ジョニー・ザ・ラビット』

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・直木賞作家の東山彰良さんが2008年に発表した、初期の作品。
★内容紹介
・主人公はマフィアのドンに飼われていたウサギのジョニー。3歳(人間なら30歳)のオス。ジョニーはこの飼い主が大好きだったが、飼い主は他のマフィアに殺されてしまう。その場を逃げ出したジョニーは放浪の結果、野良ウサギのコミュニティで私立探偵となった。
・ジョニーは、仲間が小学校の飼育小屋に閉じ込められたのを救い出した一件で、探偵として名を挙げた。そんな彼のもとに、一匹のメスウサギが依頼に来る。ウサギの宗教団体「兎の復活教会」から逃げ出したテリーを探してほしいという。「兎の復活教会」に潜入したジョニーだったが、そこで見たものは、「復活の樹」と呼ばれる謎の塔のもとで起きたウサギの集団自殺事件。ありふれた失踪人(失踪ウサギ)探しだと思われたものが意外な展開を見せ、なんとジョニーの元飼い主が殺された事件につながっていく──。
★読みどころ1)ハードボイルドのパロディとしての面白さ
文章も展開も会話もハードボイルドのお約束に乗っかっているが、それがウサギというのが妙におもしろい。ジョニーはマフィアに飼われていたためその価値観に馴染んでおり、モットーは「花は桜木、男はジョニー」と、すごくシブくてかっこいいのだが、ウサギの生態が随所で顔を出す。メスウサギに会ったらとりあえず交尾しちゃうし、蒸発したアルコールで死にそうになったり、ストレスがたまると足で地面を何度も蹴ったり、元飼い主の仇に会ったときも、気持ちいい箇所を撫でられるともうなんでもよくなったり。ウサギを飼っている人が読むと、作者がそうとうウサギに詳しいのがわかるはず。
★読みどころ2)でも可愛い話だと思ったら大間違い
ジョニーが出会ったウサギの集団自殺事件から、物語は人間の世界に移っていく。人間界にやってきたジョニーは元飼い主を殺したヒットマンに飼われることになるが、その過程で、実はウサギたちが「復活の樹」と呼んでいた謎の塔は原子力発電所だったことがわかり、その背後には覇権を巡るマフィアや政治家の暗躍があったことが解明されていく。だがもちろんジョニーにそんなことはわからず、ただ、元飼い主の仇をうつためにウサギならではの作戦を用いて仇を追い込んでいくが……ラストはかなり切ない。
★読みどころ3)なぜウサギなのか
ジョニーは物語の中で、人間になりたかったウサギとして描かれる。けれどもちろんなれるはずはなく、いくら人間の考え方の真似をしてもウサギの本能には逆らえない。人間界で暮らすにはペットでいるしかなく、それが意外に心地よかったりもする。つまりこの物語は、中途半端な立ち位置でどこにも所属することのできない主人公を描いている。自分には届かないものを求めて苦悩するジョニーが最後に選んだ道は何なのか。
・ユーモアと哀愁が入り混じるウサギ小説。

東山彰良『ジョニー・ザ・ラビット』
双葉文庫から現在は電子書籍のみで524円で販売中です。
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