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麻宮好『恩送り』

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★内容紹介
・小学館の「第一回警察小説新人賞」受賞作、期待の新人の小説。サブタイトルは「泥濘(でいねい)の十手」つまり江戸時代の警察である岡っ引きや同心を描いている。
・主人公は16歳のおまき。彼女は赤ん坊のときに寺の門前に置き去りにされていた子で、甘味処を営む両親にひきとられ、可愛がられてすくすくと育った。ところが、岡っ引きでもある育ての父が、火付けの探索をしている最中に行方がわからなくなる。なんとか父を探したいと、父の上司である同心に自分を岡っ引きにしてほしいと頼むが断れる。そこでおまきは、父の残した手がかり──火付けの現場にあった何かの蓋をきっかけに自分で探索を始めようと決意。彼女を手伝うのは、まだ十歳かそこらの少年2人。このふたりが只者じゃない。ひとりは材木問屋の息子の亀吉。彼は絵が得意で、一度見たものならそっくりに描くことができる。もうひとりは盲目で身寄りがなく、今は寺で面倒をみてもらっている少年、要。要はとにかく鼻が利く。
・そこにもうひとり重要な人物が登場する。新たに、おまきの住む深川の担当になった同心・飯倉。おまきは飯倉にも手下にしてほしいと頼みに行くが、やはり断られる。しかしある事件を、亀吉の目と要の鼻とおまきの体力で解決したことから、飯倉は3人の力を認め、探索を手伝うように。そんな折り、川で水死体があがる。その水死体のたもとには、おまきの父が残していた謎の蓋と一対になる容れ物が入っていた── はたして江戸を騒がせる連続火付け犯の正体は?そしておまきの父はどこへ消えたのか?
★読みどころ1)江戸の情景と人物の描写が抜群
時代小説は、ただ古い言葉を使えば時代小説になるというわけではなく、細やかな描写からその時代が自然と伝わってくるものが望ましい。この著者はそのセンスが抜群。今では耳慣れない商売とか言葉も、わからないなりに情景が浮かんでくるような文章を書く。さらに、人物がとても生き生きしている。のみならず、気の強い町娘とか、何不自由なく育てられたまっすぐな坊ちゃんとか、堅苦しい同心とか、武家の家と商売人の家とか、その人物がどんな身分で、どんな環境にいて、どんな生活をしているかというのが会話から浮かび上がる。読んでいてとても気持ちよく、ああ、今自分は江戸時代をみている、という気持ちにさせてくれる。
★読みどころ2)物語のテーマ
タイトルの恩送りとは、恩を、くれた人に返すのではなく別の誰かにほどこすこと。くれた人に返したくても返せないことがある。その時は、他の人や自分の後に続く人に、同じようにしてやることで、人の縁は続いていく。それをいろんな形で見せてくれる。
★読みどころ3)捕物帳としての面白さ
火付けの謎がどんどん意外な方向に転がっていって飽きさせないが、最後まで読むと、実は最初の方にヒントになるようなことが書いてあったりと、ミステリとしても読ませる。
・時代小説が好きならこの新人は要チェック!
麻宮好『恩送り』
小学館から1870円で販売中です。
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