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辺見じゅん『ラーゲリから来た遺書』

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★内容紹介
・映画「ラーゲリより愛を込めて」の原作となった、1989年のノンフィクション。第二次世界大戦終了後、8年にわたってシベリアの捕虜収容所(ロシア語でラーゲリ)に留め置かれ、日本に帰ることなく現地で亡くなった山本幡男さんについて書かれたもの。山本さんは亡くなる間際に家族宛に遺書を残すが、当時、収容所で文字を書き残すことは厳しく禁じられており、見つかればすべて没収されていた。彼の遺書も、仲間たちがずっと隠し持っていたが、結局すべて募集されてしまう。けれど仲間たちは厳しい監視の目をかいくぐり、ある驚くべき方法で山本さんの遺書を家族に届けた。
・このノンフィクションでは、まず、当時のソ連の収容所という場所がどういうものだったのか、捕虜はどういう生活を送っていたのかが詳しく綴られる。強制労働の過酷さだけではなく、終戦直後はシベリアの土地開発の労働力として使われていた捕虜たちが、数年するとソ連の社会主義の教育を受けさせられ政治的に転向させるような方策がとられたというような経緯も描かれる。また、捕虜に許された娯楽と禁じられた娯楽の話があったり、スターリンの死や朝鮮戦争、国連の動き、岸信介内閣の日ソ関係政策など、さまざまな要因が捕虜の待遇を変えてきた様子も説明される。
・本書の中心である山本幡男さんは、明治41年生まれ。今の東京外語大学でロシア語を学び、昭和11年に満州にわたって満鉄に入社する。その後徴兵されるが、そのロシア語の能力と学問への造詣の深さは有名で、収容所時代は通訳を務める一方、収容所仲間たちに日本語を忘れないよう句会を開いたり、文芸誌を作ったり、たまに催される映画鑑賞会ではおもしろおかしく同時通訳したりと、捕虜たちの精神的な支柱になった存在。だからこそ仲間たちは山本さんの遺書を家族に絶対届けようと努力した。
・感動的であるとともに、本当に辛いときに人を支えるものは何なのか、そしてどうしてこんな悲劇が起きてしまうのかを、今この時代に、もういちど考えさせてくれる。
・そのノンフィクションをもとにして作られたのが映画「ラーゲリより愛を込めて」で、映画の脚本を担当した林民夫さんによるノベライズが、今年の8月に文春文庫から刊行された。
林民夫『ラーゲリより愛を込めて』
・これは映画のストーリーを小説にしたもの。山本さんの身に起きたことは原作に沿っているが、実際には山本さんと一緒に収容所にいたメンバーはかなり入れ替わっているのに対し、映画では最初から最後まで同じ仲間たちが登場する。彼らはフィクションだが、原作に出てくるいろんな捕虜たちのエピソードを合わせた集合体のような存在。そしてそれぞれに戦争に対して、色々な思いやトラウマを抱えているという設定。それが山本によってほぐされていく様子がひとつの見どころ。
・映画は原作をベースにしつつも、いろんなエピソードがカットされたり足されたりしているので、ぜひ映画もしくはノベライズと原作の両方を読んで、比べてみてほしい。

辺見じゅん『ラーゲリから来た遺書』文春文庫から715円で、
林民夫さん『ラーゲリより愛を込めて』同じく文春文庫から726円で販売中です。
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