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アラン・ベネット『やんごとなき読者』

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★内容紹介
・エリザベス2世が主人公のコメディ小説です。
・イギリスではエリザベス2世が登場する小説が色々ある。中には、王政が廃止されて庶民になった女王を描いたコメディや、女王が名探偵になって宮殿で起きた殺人事件を解決するなんてものも。そんな中で本書は、高齢の女王がある趣味に目覚めるという物語。
・著者のアラン・ベネットはイギリスで人気の脚本家であり小説家。この本は2007年にイギリスで刊行され、またたく間にベストセラーになった。日本では2009年に翻訳出版され評判を呼び、昨年、手に取りやすい新書サイズになって再刊行された。
・タイトルの「やんごとなき読者」とは、もちろんエリザベス2世のこと。主人公は当時70代後半だったエリザベス女王。ある日、バッキンガム宮殿の裏に停まっていた移動図書館のトラックに女王の飼い犬が吠えかかったのがきっかけで、女王は移動図書館の存在と、そこで本を借りている厨房係の少年ノーマンと出会う。礼儀として1冊借りようと思うが、読書習慣のない女王は何を読んでいいかわからない。しかし、何冊か読んでいくうちに次第に読書の楽しさに目覚め始める。読書の先輩としてノーマンを厨房係から自分の侍従に取り立て、読みたい本リストを作り、本の感想などを語り合うように。読書があまりに楽しいので、だんだん公務が疎かになっていくほど。
・しかし女王の個人秘書や侍従といった王室周辺の人々は、女王の読書を良く思わない。なんとか読書をやめさせようと、あの手この手で妨害する。女王はついにある決意をして──。
★読みどころ1)コメディとしての面白さ
読書にハマって、生活の中心が読書になってしまった女王と、なんとか女王に読書をやめさせようと悪戦苦闘する周辺の攻防がとてもコミカル。なぜ女王の読書に周囲が否定的なのか、日本の読者にはちょっとわかりにくいが、実はイギリスでは「上流階級は知的ではない」というイメージがある(巻末解説に詳しい)。イギリスで好まれるフィクションに、ポンコツな上流階級を賢い使用人が助けるというパターンがあるくらい。上流階級が受ける教育は社交や経営が重視され、知識や学問に秀でるのは上流の仕事ではないという考え方。したがって本を読むのは女王らしくないので、周囲はなんとかそれをやめさせようとする──というのが、イギリスへの風刺になっている。
★読みどころ2)本を読む楽しさを知った女王の描写
70代も後半になった女王が、それまで知らなかった楽しみに目覚め、知らなかったことを知るというのはこんなに楽しいんだと生き生きしている様子がとてもいい。それによって女王の内面が少しずつ変わり、知性が増すのみならず、新たな価値観を会得していく。本の続きが読みたくて仕事に身が入らないなんて描写も共感を呼ぶ。
・読書の楽しさと風刺に満ちた、いかにもイギリスらしい一冊。

アラン・ベネット『やんごとなき読者』
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