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天祢涼『葬式組曲』

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★内容紹介
・舞台は葬儀社。小さいけれど評判のいい豊穣葬儀社が手がけたお葬式で起きたさまざまな事件を、その葬儀社の社員が解き明かす連作ミステリ。
・単行本や最初の文庫では、物語は近未来の話という設定だった。日本から葬式という習慣が廃れ、人が亡くなるとそのまま火葬する「直葬」が当たり前になった時代、あえて古くからのお葬式を行う葬儀社を描いたもの。それによってお葬式という儀式が何のために、誰のためにあるのかを描いていた。
・今回の改稿では近未来設定をなくし、今の日本で普通に行われるお葬式を描いた5つの短編を収録。以前の設定なら「なぜわざわざお葬式を?」というところでまず一悶着あったのだがそれがなくなり、より純粋にお葬式のあり方が描かれている。
・収録されている短編は、まず、「父の葬式」。
酒の蔵元をやっている父が亡くなり、東京でデザイナーをしていた次男が久しぶりに実家に戻る。次男は父親と折り合いが悪く、葬式にもさほど興味はない。ところが父は、蔵元をついだ長男ではなく家を出た次男に喪主をするよう遺言を残していた……というもの。はたしてその真意は?
第二話は「祖母の葬式」
残された孫が断固として火葬を拒否する。今の日本では火葬せず埋葬することは法律上不可能。いったいなぜ火葬を嫌がるのか?
第三話は「息子の葬式」
まだ7歳の少年が交通事故で亡くなった。母親はショックで家族だけでそっと見送ってやりたいと思うが、父親が政治家で、政党手動の盛大なものになることが決定。息子の死を政治利用されたくない母親がある方法を思いつく。
第四話は「妻の葬式」
結婚五年目で自殺してしまった妻を、生前の意向を組んでお葬式なしの直葬で弔った。するとその後、夫に妻の悲鳴の幻聴が聞こえるようになる。お葬式をやり直した方がいいのではと思い始め……。
そして最終話は「葬儀屋の葬式」
ここまでの四話が思わぬ形でつながっていく。
★読みどころ1)ミステリとしてのおもしろさ
まずどの話も謎解きミステリとしてとてもよくできている。奇妙な遺言の謎だったり火葬を嫌がる遺族だったりと、「どうして?」という興味を上手に抱かせつつ、まったく予想もしなかった真相を炙り出す。しかも一話完結でありながら、それぞれの話に最終話に通じる伏線も仕掛けられているので油断できない。
★読みどころ2)お葬式って何のため?というのを考えさせられる。
遺言を通して故人の思いに触れたり、遺族の意に沿わない儀式をどう捉えるかであったり、あるいは葬儀費用をどう考えるかといった問題がそれぞれの短編に込められている。いずれもミステリなので普通ではない事件が起きるが、そうでなくても、お葬式というものの意味と身近な故人への思いを見つめ直せる短編集。
天祢涼『葬式組曲』
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