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宮部みゆき『パーフェクト・ブルー』

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★内容紹介
・国民的作家、宮部みゆきさんの長編デビュー作。1989年の作品。
・舞台になるのは家族経営の蓮見探偵事務所。お父さんが所長で、長女の蓮見佳代子も調査員として働いている。ある日加代子は、家出した高校生の諸岡進也を探すという仕事をしていた。進也の兄、諸岡克彦は高校野球のスーパースター。その野球部に最近嫌がらせめいた事件があって関係者は神経質になっており、問題児の弟がマスコミにばれては厄介と秘密裏の捜索を頼まれていた。
・無事に進也を探し出した加代子だったが、この進也は意外にも兄思いのいい少年だった。だがその進也を諸岡家まで送っていく途中で、兄の克彦が焼死体となって発見されるという
大事件が起きる。野球部と諸岡家が大混乱となる中、蓮見探偵事務所と進也は克彦の死の真相を調べ始める──。
★読みどころ1)宮部みゆきが確立した私立探偵小説の新規軸
70年代頃から日本でも流行し始めた私立探偵小説は一般にハードボイルドとも呼ばれ、ひとつの定番の構造があった。それは私立探偵のもとに失踪人探しの依頼がきて、対象を探す過程で探偵が事件に巻き込まれるというもの。この物語もその構造に倣っているが、従来の私立探偵ものと大きく違うのは、それまでの「クールで一匹狼のハードボイルド」という印象ではなく、暖かくて生活感のある探偵事務所にしたこと。近所付き合いもあり、家族仲が良くて問題を抱えた諸岡家の助けになりたいという善意に裏打ちされた物語になっているため読み心地がいい。
★読みどころ2)さらにその暖かさを増進させる語り手の存在
実は物語の語り手は加代子ではなく蓮見探偵事務所が飼っている犬のマサ。引退した警察犬という設定で、加代子のボディガードとして常に一緒に行動している。ちょっと離れた場所から客観的に事件を描写できる上に、犬だから気づけることもある。また、追っていた匂いを途中で見失ってしょげたりするのも可愛いし、いざというときには犯人に飛びかかるというアクションも可能。人間てこういうところが不可解だなあ、という犬目線のツッコミも楽しい。マサ目線の短編集も出ている。
★読みどころ3)平成初期の生活描写
ケイタイやネットが普及していないといっただけではなく、当時の東京下町の言葉遣いだったり、戦争を経験した人が普通にいたり、若者のグレた描写だったりという、人のあり方自体がその時代を実によく表現している。宮部さんはもともと人物描写にとても優れた人で、その人がどんな生活をしているか、どんな言葉使いをするか、こういうときどんな反応をするかという描写から人物を浮き上がらせることに秀でている。街の風景や小道具から時代を感じるだけではなく、人物から時代を感じさせる稀有な作家。
・宮部みゆきさんは途中から文庫で5巻とか6巻とかの長い作品が増えるが、初期のものは一巻完結で手に取りやすいので、まだ読んでないという人はぜひどうぞ。

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