多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

寺地はるな『川のほとりに立つ者は』

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★内容紹介
・主人公はカフェの店長を務める29歳の女性、原田清瀬さん。彼女は2月に恋人の松木圭太とケンカをしたまま、すれ違いが続いている。ケンカの原因は圭太が女性宛の手紙を書いているのを見つけてしまい、それに対して何も答えなかったため。おりしも新型コロナウィルスが広まり始めた時期と重なり、ケンカ別れしたまま会う機会もないまま夏になってしまった。カフェの経営も厳しくなり、バイトは失敗ばかりして清瀬に皺寄せがくるし、ストレスのたまる毎日を送っている。
・ところがそんなある日、圭太が大けがをして意識不明の重体だという連絡が入る。慌てて駆けつけると、圭太は小学校時代からの友人と一緒に歩道橋から転落したという。しかもふたりはケンカをしていたようだという目撃証言も。一緒に落ちた友人も意識不明で、その友人の恋人は一方的に圭太のせいだといって詰ってくる。
・しばらく連絡をとっていなかったこともあり、何が起きたかわからない清瀬はとりあえず久しぶりに圭太の部屋に行ってみた。そこで彼女は、三冊のノートを見つける。そこにあったのは、まるで子どもが書いたような下手な文字と無数の手紙の下書き、そして圭太の字で綴られたあることの記録だった。それを見て初めて清瀬は、圭太の隠し事の本当の理由を知る──。
・はたして圭太と友人の転落事故の背景には何があったのか。そして清瀬が知った真実とは何だったのか。
★読みどころ1)自分の「常識」を問う物語
今のあらすじの説明は、ネタバレを避けるためにわざと大事な要素を省いている。それを言わないとなかなか説明が難しいが、人を見るときに自分が勝手に決めた基準で見てはいないか、という問いかけがこの物語には詰まっている。たとえば清瀬のカフェの失敗の多いバイトについて「使えない」と松木に愚痴ったとき「清瀬の教え方に問題はないか」と尋ねる場面がある。清瀬は自分が責められた気持ちになるが圭太は「清瀬にはあたりまえにわかることでも、その人には難しいということがあるかもしれん」と話す。また、ある女性が暴力を振るう男性と付き合っているのを知った人が「別れればいいのに」と言うと「他人にはわからないけどその人にとっては深刻な事情があるのかもしれない」と返される場面もある。たまたま安全で恵まれた場所にいる人が、そうでない人に対して「これが正しい」「こうあるべき」と決めつけることの危うさが、さまざまな形をとって繰り返し語られる。
★読みどころ2)それに気づいた清瀬の変化
自分の見方が一方的だったことに気づいた清瀬が、どういう考え方をするようになるか。自分が「ちゃんとしている」と思っている人ほど、実は周囲が見えていないのではと気づかせてくれる。そんな厳しいテーマを優しい物語で包んでみせてくれる。
・読んでいると心のデトックスになるような物語。

寺地はるな『川のほとりに立つ者は』
双葉社から1650円で販売中です。
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