多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

梶よう子『我、鉄路を拓かん』

2022年10月13日(木)

カルチャー
★内容紹介
・主人公は幕末の江戸で土木請負業をしていた平野屋弥市。のちの平野弥十郎という人物。彼は普請の土台を作るのが仕事で、幕末には神奈川の台場建設、明治になってからは築地居留地の築地ホテルの基礎などを手がけた。
・そんな弥市は幕末のある日、勝麟太郎から鉄の道を走る蒸気車の話を聞く。海外では当たり前になっているというその交通機関の話を聞き、日本にそれができるのなら、ぜひともかかわりたいと思う。そして戊辰戦争を経て明治になり、鉄道計画が動き出した。新政府に呼ばれ、新橋から横浜まで線路を敷く土木請負のひとりとして参加することになった弥市だったが、鉄道敷設には大きな困難があることを知る。はたして弥市たちは無事に鉄道を走らせることができるのか──という、土木技術社の目から見た鉄道プロジェクト物語。
★読みどころ1)鉄道開業を阻むさまざまな問題をどう乗り越えるか
まず、鉄道に反対する者が多く、線路を通す場所が確保できない。政府の中でも反対派があり、急先鋒が兵部省。そして芝から品川にかけての広大なエリアが兵部省の軍用地で鉄道敷設の許可が出ない。そこで海の上に堤を作ってそこに線路を敷くことにしたが、今度は漁師たちが海に出られなくなると大反対。さらに東京から横浜の間で旅館や飲食店、商店をやっている者、馬貸しをしている者などが、人が通らなくなると商売が立ちいかなくなるとして反対。さらに先祖代々の土地や田畑を提供するように言われた農民たちも反対する。加えて、複数の請負業がそれぞれ職人を集めた大所帯なので、職人の間にも派閥や小競り合いが起きる。何より現場で働く職人は誰も、鉄道がどんなものなのか知らずに作っている。これらの問題を、新政府の役人・井上勝やお雇い外国人のモレルらとともに弥市ら土木業者が知恵と工夫と話し合いでひとつずつ解決していく。
★読みどころ2)庶民の目から見た鉄道開業が描かれていること
鉄道開設といえば鉄道の父と呼ばれる井上勝の話になることが多く、政治や外交、経済の視点で語られがちだが、この物語は海の中で土砂を浚い、縄張りをし、石を切り出しという現場の人々の目で描かれる。幕末から話が始まっているので、徳川から新政府にいたるまで施政者たちの勝手な思惑で庶民がどれだけ振り回されるかがよくわかる。
★読みどころ3)日本初の大事業に挑む者たちの気概
そんな困難がありながらも、いろんな立場で携わる人たちがみんな鉄道楽しみ!という思いで動いているのがとてもいい。幕末から土木普請に携わってきた弥市が、これまでは地震や大雨で壊れたものを作り直してきたが、まったく新しいものを最初に作れるのが嬉しいというのが感動的。
・品川の堤を作った、土木現場から見た鉄道開業の物語です。
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