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安部龍太郎『迷宮の月』

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★内容紹介
・舞台は七〇二年(飛鳥時代末期)、主人公は粟田真人(あわたのまひと)という実在の官僚。藤原不比等らとともに、大宝律令という日本で初めての体系的な法律を作った人。この当時、日本は三十三年前に起きた白村江の戦い以降、唐と国交を断絶していた。時の権力者、藤原不比等はその国交を回復させるべく、粟田真人をリーダーとした遣唐使船4隻を唐に派遣する。信頼する部下たちとともに出向した真人だったが、潮の流れに巻き込まれ他の三隻とはぐれて予定よりかなり離れた地域に到着した。その地域の責任者に話を通し、唐の首都である長安を目指せばいいと思っていたが、ここで衝撃の事実が判明。なんと、唐という国はすでになく、今は周になっていて、則天武后という女帝が治めているという。
・混乱する真人たちだったが、国の名前がなんであろうと国交回復がミッションなので、まずは長安に向かって則天武后に拝謁しようとする。しかし政治が乱れた周では賄賂がなければ役人が通してくれない。はたして真人たちは無事に則天武后に拝謁し、国交を回復させることができるのか──。
★読みどころ1)遣唐使の具体的な描写。
まずは当時の航海技術が興味深い。船内でのルールや生活に始まり、海上での距離を測る手段や食糧の内容まで、「こんなふうに旅をしていたのか!」という興味深い情報が盛り沢山。長安に到着してからも、式典に参加する時の儀礼や服装に始まり、衣食住すべてに至るまで日々の生活の様子がつぶさに描かれる。なんと正式な場では、中国の昔の資料にのっとった、卑弥呼の時代の倭人の衣装が求められたそうな!この時点で400年前の資料に沿った儀礼が「正式」とされていたのは驚き。今なら、海外への使節が江戸時代の格好をさせられるようなもの。
★読みどころ2)粟田真人の波乱万丈なミッション達成
長安についてから則天武后に会見を求めるも、なぜかさまざまな妨害が起きる(ここはフィクション)。真人を陥れようとしているのは誰なのか、誰が敵で誰が味方なのか、状況を見極めながら推理を働かせて、絶体絶命の中で逆転の一手を打つくだりは大興奮。良質のスパイ小説のような面白さがある。古代史に詳しくなくても問題なく楽しめる親切設計。
★読みどころ3)粟田真人に託されたもうひとつの秘密のミッション
実は真人には国交回復とは別に、ある秘密のミッションが藤原不比等から託されていた(多分フィクション)。それがわかるのは五章なのでここでは言わないが、百年前(唐がまだ隋だった時代)のとある外交の失敗の尻拭いのようなもの。百年前の政治家の失敗が、後の世に大きな影響を与え、その余波を受けるのは未来の人間なのだということがここで描かれる。そしてその失敗を繰り返さないためにはどうすればいいか、がこの物語のテーマ。
・波乱万丈の歴史エンターテインメントにして、歴史の責任とは何かを問う骨太な一冊。

安部龍太郎『迷宮の月』
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