多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

大島真寿美『たとえば、葡萄』

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★内容紹介
・物語の始まりは2019年の年末。28歳の美月が会社を辞めた場面から始まる。退職の理由はあとで少しずつ語られるが、いろんなことが重なって少しずつ心が削れ、ある時唐突に、ああもう辞めよう!と、勢いで踏み切ってしまった。とはいえ先の目算があるわけではない。失業保険と退職金と貯金があるとはいえ、しばらくは節約しなくてはならない。両親は実家を売って長野に移住しているし、仕事を辞めたとは言いづらくてそちらにも行きたくない。ということで、母の友人で前から親しくしてもらっていた市子さん(56歳)の家に、しばらく居候させてもらうことになった。
・年が明けたら今後のことを考えようと思っていたのだが、そこにコロナがやってくる。生活の形が一気に変わってしまい、職探しもままならない。市子さんとその友人たちは還暦間近だがバイタリティに溢れ、手作りマスクを売ろうなんて話をしており、それを聞いても採算がとれるのかとちょっと斜めに見てしまう。そんなとき、市子さんの友人の頼みで
山梨のワイナリーで葡萄の収穫を手伝うことになり……。
★読みどころ1)先の見えない状況で、自分の道を探す物語
美月は葡萄の収穫を手伝ったとき、自分が世界とつながっている、生き物として、宇宙の構成要素としてちゃんと機能している、という気持ちを味わう。それは会社にいるときには味わえなかった「実感」。だからといって農家になりたいわけではないが、友人の仕事を手伝ったりする中で、これって自分に向いているかも、これが自分のやりたいことかも、というものに出会っていく。そこから人と人がつながって、思いもしなかった未来が開いていく。これはコロナで閉塞感に溢れ、先が見えなくなっている中、未来への扉というのはいろんなところで開くのではないか。たとえば、葡萄からだって──という物語。
★読みどころ2)ふたつの世代の物語
美月と彼女の友人たちというアラサー世代と、市子さんの友人たちのアラカン世代が物語の中で交流していく。アラサーたちはノウハウや技術をアラカン世代から学び、教えを請い、時には鬱陶しいと思いながらも自分たちで進もうとする。アラカン世代はそれを見守り、時には手も口も金も出して、アラサーたちを導く。アラカン世代がアラサー世代を見て自分もこうだったと思ったり、アラサーがアラカンを見て「この人たちってどんなアラサーだったのか」と不思議に思ったりという世代の関係がとてもいい。
★読みどころ3)実は別の小説の続編でもある。
この物語だけで独立した作品ではあるが、実は美月や市子さんたちは著者が15年ほど前に出した『虹色天気雨』と『ビターシュガー』に出てきた人たち。作中で過去の話がちょっと出てきたりするが、それは以前の作品に詳しく書かれている。当時、美月はまだ中学生、市子さんたちはアラフォー。彼女たちが年齢を重ねてこうなった、というのもぜひ味わってほしい。
・生き生きした生活の良さ、を味わえる元気が出る物語。

大島真寿美『たとえば、葡萄』
小学館から1980円で販売中です。
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