多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

五十嵐律人『幻告』

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★内容紹介
・主人公は裁判所で書記官として働く宇久井傑(うぐい・すぐる)。ある窃盗事件の公判のあと法廷から出たところで落下するような感覚を覚え、意識を失う。気づくとそこは五年前、彼がまだ大学生で、仲間達とランチをとっているところだった。日付を確認したところ、その日は彼にとって重大なある出来事があった日だと気づく。
・それは傑の父親が性犯罪で有罪判決を受けた日。物心ついたときには両親は離婚していて傑は父親の名前すら知らなかったが、警察が捜査で母親を訪ねてきたため、父が再婚後に血の繋がらない娘にいたずらをしていたとして逮捕されたことを知らされた。その裁判の日に戻ったことを知った傑は、五年前と同様に裁判所へ傍聴に向かう。そのとき傑はひとつだけ、五年前と違う行動をとった。その場にいた大学の同級生で、現在は同じ裁判所で働く女友達・愛さんに父のことを話したのだった。五年前は誰にも言わなかったのに……。
・五年前と同じ裁判のあと、法廷を出ると、傑は再び意識を失い、気づくと現在に戻っていた。あらためて父の裁判記録を見てみると、あるきっかけで、もしかしたら父は無実なのではないか、冤罪ではないかという可能性に気づく。だがさらに傑が驚いたのは、大学卒業後もしょっちゅう一緒に飲んでいた友人たちの名前がスマホから消えており、単なる同僚のはずだった愛さんと恋人同士になっていた。これは五年前にタイムスリップしたとき父のことを愛に話したため、そこから噂が広がり、当時の友人が離れていったこと、愛だけは責任を感じたのかそばに居続けたことが判明。つまりタイムスリップ時の行動によって未来が書き換えられたことがわかる。
・ということは父の冤罪を晴らす証拠を見つけられれば、また過去に戻るようなことがあったとき裁判の行方を変えられるのでは?まもなく2度目のタイムスリップを体験した傑は、調べた資料を父の弁護士に渡すことに成功。これで自分は犯罪者の息子ではなくなると思ったが、現在に戻ると、予想もしない未来に書き変わっていた。父が無罪になったら別の大きな不幸が訪れることを知った傑は迷いに直面する──。
★読みどころ1)法廷もののサスペンス
法廷ミステリの面白さは、検察側と弁護側が証拠や証言をはさんで丁々発止の駆け引きを見せること。思いがけない証拠を提示したり、意外な証言を引き出したりして、予想もしない真相に到達する。著者の五十嵐さんは現役の弁護士で、法廷場面はリアリティたっぷり。あまり馴染みのない法律が、裁判の中でわかりやすく紹介されるのも興味深いし、父親の冤罪事件の真相が判明するくだりは二転三転のミステリの面白さを堪能できる。
★読みどころ2)タイムスリップものの面白さ
傑は次第にタイムスリップのルールがわかってきて、回数にも限りがあることに気づく。限られたタイムスリップの中で、少しでもいい未来を確定させようと試行錯誤するのが読みどころ。
・その過程で、裁くとはどういうことか、という法に携わる者の課題について考えさせる。ミステリのおもしろさ、SFのおもしろさに加え、ヒューマンドラマとしても読み応えのある一冊。
五十嵐律人さんの『幻告』
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