多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

鮎川哲也『黒いトランク』

[この番組の画像一覧を見る]

★鮎川哲也
・1919年生まれ、おもにアリバイトリックを得意とする本格ミステリの作家。鉄道に造形が深く、鉄道ミステリの傑作を多く遺している。2002年に亡くなりましたが、新人の育成にも大きな貢献をした作家。
・1956年(昭和31年)の名作『黒いトランク』も時刻表を駆使した鉄道ミステリでありアリバイ崩しもの。時刻表ミステリというと松本清張の「点と線」が有名だが、それより2年前の作品。
★内容紹介
・物語の舞台は1949年(昭和24年)。東京の汐留駅で、トランクの中から腐乱した男の死体が発見された。捜査でその男は馬場という人物だと判明、トランクの送り主のデータなどから犯人は福岡に住む近松という男だと思われたが、近松は自殺らしき遺体で発見された。被疑者死亡で一旦は落着したものの、近松の妻は夫が殺人犯とは思えないと、大学時代の同期で今は東京で刑事をやっている鬼貫に連絡。鬼貫が調べ始めると数々の怪しい情報が集まった。そのうち容疑者が絞られたが、容疑者は東京在住。アリバイもあり、福岡で数々の工作をしてトランクを発送するのは不可能と思われたが……。
★読みどころ1)1949年という舞台設定
1956年の作品なのになぜ舞台がその7年も前なのかというと、占領下で飛行機が使えないから。(国内での航空が解禁されるのは昭和26年)。飛行機を使った移動ができない、
というのがアリバイ崩しを面白くしている。さらに当時の時代風俗が興味深い。駅でトランクから死体が見つかるのも、鉄道で荷物を 送るシステムがあり、受取人がこないことで発覚する。また一般の電話と別に「鉄道電話」「警察電話」といった言葉が登場したり、靴磨きの少年から情報を集めたり、今はなくなってしまった地名や駅名も登場する。会話の中に戦争の話が出てきたり、今では通じないが当時はみんな知っていたような日常の言葉などが登場し、現代の作家が過去を書いた時代小説ではなく、ほぼリアルタイムの小説だからこそ味わえる時代感がある。また、何度か改訂版が出るたびに、そういった今では通じにくい言葉や変わってしまった駅名などに注釈がつけられているので、わかりやすい。
★読みどころ2)複雑にして巧妙なアリバイトリック
昭和24年の時刻表が掲載され、それに則って推理が進むが、このトリックが実に複雑!だが決してわかりにくいわけではなく、少しずつ手がかりが集まって推理を積み上げていく様子は緻密に積み木を積むのにも似て論理の楽しみが味わえる。細かい時刻表のあれこれが面倒な人はそこはスルーしても、謎解きの面白さは損なわれないのでご安心を。
・アリバイ崩しのレジェンドによる記念碑的作品。

鮎川哲也『黒いトランク』
創元推理文庫からは660円で販売中です。
関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報