多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

冲方丁『天地明察』

2022年06月30日(木)

カルチャー
★内容紹介
・江戸時代前期、四代将軍家綱から五代綱吉にかけての時代。主人公は渋川春海。別名・安井算哲といって、江戸城にあがって囲碁を打つ、今でいうプロの棋士。彼は本業の囲碁の他、算術や天文が大好きで、暇があれば算術の問題を解いたり、星の位置や太陽の位置を観測したりしていた。
・そんな春海に暦作りのプロジェクトへの参加命令が降る。この時期の暦は中国の暦を元に800年以上同じものが使い続けられており、実際の天の運行とずれまくっていた。正確な星の位置の観測と日本の測量を経て、正確な新暦を作ろうとする春海。しかし何度計算しても月蝕の日が合わなかったり、それまで京で暦制作を一手に担ってきた公家から妨害が入ったり、長年使ってきたものを変えるということに朝廷が抵抗したりと問題は山積み。果たして改暦は成功するのか──
★読みどころ1)算術の面白さ
暦作りに入る前、算術に熱中する春海が描かれるが、ここで出てくる江戸時代の算術の話がとても面白い。神社の絵馬に算術の問題を書いて奉納し、それを見た人が答えを書き入れるといった文化もあった。驚くのはこの時代の日本に未知数の概念がなかったにもかかわらず計算問題を解いていたこと。日本独自に発達した和算の文化がとても興味深い。
★読みどころ2)暦づくりの過程
当時は陰暦なので、月の満ち欠けを正確に予想することが必要だった。そのため全国を測量で回り、星の位置を確かめるというのを繰り返す。プロジェクトメンバーの中には、その旅の途中で寿命が尽きてしまう者もいる。天の理(ことわり)を解き明かすという壮大な科学に挑んだ人たちのロマンと情熱が心を打つのみならず、具体的にどのように暦が作られるのかも新鮮。
★読みどころ3)暦と権力の関係
それまでは朝廷が握っていた暦制作を幕府が手がけるということは、宮中行事や神事、祭りなどの日程を幕府が決めるということ。つまりこの改暦には、幕府と朝廷の権力争いがバックにあった。純粋に科学に基づいて算出した正しい暦が、根拠のない伝統とか既得権益とかに邪魔されて世間に出せない。今も似たようなことが起きているのでは……。

・江戸時代の科学の考え方がわかる一大プロジェクト小説。

冲方丁『天地明察』
角川文庫から上巻が704円、下巻が607円で販売中です。
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