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伊坂幸太郎『マイクロスパイ・アンサンブル』

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★内容紹介
・ひとつめの話の主人公はいじめられっことスパイ。仲間たちにいじめられ、父親にも暴力をふるわれていた少年がついに逃げ出す。けれど見つかってしまい、あわや、というところで助けてくれた人がいた。それはエージェント・ハルトと呼ばれるスパイ。ハルトは少年を連れて、仲間が用意しておいてくれたプロペラ機に乗って飛び立とうとするが、連絡ミスなのか、それはプロペラ機ではなくエンジンのないグライダーだった。はたしてふたりは追いかけてくるいじめっこから逃げられるのか?
・もうひとつの話の主人公は、松嶋くんという就職活動中の青年。就職活動中にもたついているうちに、恋人が他の男性に乗り換えてしまった。その恋人は松嶋くんがふらふらしているように見えて、まるで風まかせにふらふら飛ぶエンジンのないグライダーみたい、と不満を口にしていた。
・物語の本編は全七章、ここから一年ごとの、ハルトと少年の物語と松嶋くんの物語を七年にわたって描いていく。松嶋くんは就職して、そこでさまざまな出会いを体験する。いじめられっこはハルトを尊敬して、彼のようなスパイになるべく訓練に勤しむ。
★読みどころ1)このふたつの物語の関係は?
一方は妙に牧歌的なスパイの話でまるで童話のよう。もうひとつは新米社会人が仕事に慣れるまで戸惑ったり、人間関係にあたふたしたりというリアルな物語。まったくジャンルの違うこのふたつの筋が、いったいなぜ並行して語られるのか?それぞれ別の話だが、読み進めるうちに、なんだが微妙に「同じモノ」が出てくるような?そしてどうやら同じ場所が舞台のような?
・実はこの物語、福島県の猪苗代で毎年開催されている音楽フェスのために、伊坂幸太郎さんが書き下ろした短編が始まり。本書の第一章が、2015年のフェスで販売された。それから毎年、一章ずつ続きが描かれ、現実でも作中でも七年経って一冊にまとまったもの。つまり物語の舞台は猪苗代。スパイと少年の話にも、松嶋くんの話にも、猪苗代が登場する。
★読みどころ2)物語のつながりが生み出すメッセージ
このふたつの物語のつながりは、2~3章も読めば読者にはわかる。が、登場人物たちはそのつながりにまったく気づかない。けれど、それぞれの物語の登場人物の行動が、本人もそうとは知らない間にもうひとつの物語の登場人物に影響を与えていく。「見えていることだけが世界の全てじゃない」というセリフが作中にあるが、それがテーマ。人は知らない間に誰かを助けていたり、誰かに助けられていたりする。気づかないだけで、人は幸せな奇跡のつながりの中にいると思えてくる、ハッピーな物語。

伊坂幸太郎さんの『マイクロスパイ・アンサンブル』
幻冬舎から1430円で販売中です。
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