多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

寺地はるな『カレーの時間』

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★内容紹介
・主人公はカルチャーセンターで働く25歳の佐野桐矢さん。母は3人姉妹でそれぞれの叔母にも女の子がいて、女系一族で育った。
・桐矢の祖父は83歳、心臓が悪いこともあって、そろそろ誰かが同居した方がいいのではという話になるが、母もその姉妹もイトコも祖父のことを嫌っている。若い頃には浮気をして母親を追い出した、何かにつけて「女はこうしろ、ああしろ」と高圧的でうるさい、無神経でガサツ、などがその理由。結局押し付けられる形で桐矢が祖父の家に引っ越すことに。
・しかし桐矢にとっても祖父は決して好きな相手ではない。飲食店に行けばテーブルの些細な汚れに店員を怒鳴りつける、ご近所の女性をババアとか出戻りとかと呼んではばからない、家には品薄のはずのマスクやトイレットペーパーが買いだめしてある始末(コロナの流行初期が舞台)。しかもなぜか自慢げ。なぜ平気でそんなことができるのか、そのすべてが桐矢には信じられない。はたしてこの同居、うまくいくのか?
★読みどころ1)祖父の人生
このようにあらすじを説明すると、現代の価値観にアップデートできてない困った老人の話というふうに思われるだろうが(そういう要素ももちろんある)、それだけではない。ポイントは、話の途中で、祖父の若い頃の話が挿入されること。子供の頃に終戦を迎え、戦後の食糧難を生き延びたこと。レトルトカレーを扱う食品会社に就職して、とにかく一生懸命に働いてきたこと。妻と3人の娘を大切に思っていたが、言葉が足りず、どうしても心が通い合わなかったこと。80年の祖父の人生が綴られることで、「価値観の古い昭和の男」という一断面だけではなく、さまざまな経験や思いを抱えて80年を生き抜いてきたひとりの人なのだということがわかる。
★読みどころ2)価値観の噛み合わないふたりの共同生活
桐矢は、男らしさや女らしさの押し付けが嫌いだし、極力他人に踏み込まないように、他人からも踏み込まれないように線を引くタイプ。祖父とはまったく噛み合わないが、祖父にしてみれば、自分の考えがなぜ孫に通じないのかがわからない。お互いの考えを受け入れることができない、それでも日々の暮らしを積み重ねる中で、たとえ価値観は変えられなくても理解し合うことはできるんじゃないか、理解しようとする努力はできるんじゃないかと思わせてくれる。
・すべての世代の人に読んでほしい、優しい物語。

寺地はるな『カレーの時間』
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