多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』

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★内容紹介
著作権管理団体に勤める橘は、ある日上司から有名音楽教室に生徒として通い、著作権法侵害の証拠を掴むよう命じられる。橘は小学生の頃にチェロを習っていたので、チェロの上級コースに通うことに。最初は上司に命じられた通り、レッスンの様子をこっそり録音したり、講師にクラシックではなく(著作権料のかかる)ポップスを練習したいと言って反応を見たりしていたが、次第にチェロの楽しさを思い出す。さらに講師の先生がとてもいい人だったり、同じ教室に通う仲間ができたりするうち、次第に自分のやっているスパイ行為に罪悪感が増していく。裁判が始まって証人になったら正体がバレてしまう。その日が徐々に近づいて……。
★読みどころ1)主人公の葛藤と緊迫感
橘には実はあるトラウマがあって、音楽から遠ざかっていた。ところが教室でチェロに触れるうちに、彼自身が再生していく。それなのに講師や仲間を裏切るようなことをしているわけで、その葛藤が読みどころ。さらに主人公が音楽教室を通して変化していくのを見るにつけ、
「ばれたらどうするんだろう」と読者はハラハラすることに。橘が音楽教室の人々との間に培った信頼関係はどうなるのか、壊れてしまうのかという緊迫感がすごい。読みながら「サラリーマンだから組織の命令には逆らえない」という思いと「そんな職場辞めちゃえ!」という思いが行ったり来たり。そして終盤には意外な展開が……。
★読みどころ2)音楽の描写
文字しかない小説なのに、チェロを弾く場面では音楽が聞こえてくるかのような描写力で
読ませる。これを読むとチェロが聴きたくなる。同時に、練習を重ねて楽器が弾けるようになるという体験は、プロでなくても、人生が豊かになると思わせてくれる。・音楽を通した、とても切ないスパイ小説です。

安壇美緒『ラブカは静かに弓を持つ』
集英社から1760円で販売中です。
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