多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

坂上泉『渚の螢火』

[この番組の画像一覧を見る]

★内容紹介
・1972年4月末の那覇。本土復帰を半月後に控え、琉球銀行は円ドル交換の用意に忙殺されていた。 本土復帰に合わせて米ドルを日本円に切り替えるため、本土から多量の日本円が輸送され、同時に島内に流通している米ドルを回収。ところがそんなとき、回収した米ドル札を運ぶ現金輸送車が何者かに襲われ、100万ドルが強奪されてしまう(架空の事件です。念の為)
・日本円にして3億6千万にもなる被害額。アメリカに渡す米ドルが奪われたとあっては琉球政府も日本政府もアメリカに大きな借りを作ることになり、外交紛争にもなりかねない。そこで琉球警察の幹部は銀行と警察署内に緘口令を指揮、ごく一部のみで秘密裏に捜査、解決することになった。その班長に任命されたのが、東京の警視庁への出向から戻ってきたばかりの眞栄田(まえだ)太一。与えられた班員は曲者ばかり。果たして本土復帰当日までの2週間で、彼らはドルを取り戻すことができるのか──?
★読みどころ1)沖縄に課せられた過酷な運命
アメリカ統治下から日本に戻るという出来事が、現地の人にどんな影響を与えたか、アメリカ統治下での沖縄の暮らしはどのようなものだったのか、などが暗部も含めて詳細に描かれる。特に、主人公の眞栄田刑事が東京帰りというのがポイント。彼は東京の大学を卒業し、東京で出会った妻を連れて沖縄に帰ってきた。さらに東京の警視庁に出向したという経験を持つ。
だが東京では、「沖縄人なのに日本語が上手いね」と悪気なく褒める人がいたり、「沖縄人お断り」の店やアパートがあるなど、沖縄への誤解や偏見に多く出会う。しかし沖縄に帰っても、ヤマトンチュのスパイという目で見られる。さらに、沖縄の中にも、沖縄本島と他の島の間には格差があり、差別があった。琉球の時代から、今日から薩摩、今日から日本、今日からアメリカ、今日からまた日本と、政治の都合で翻弄されてきた過酷な沖縄の歴史と現実を、
著者は眞栄田のアイデンティティの揺らぎを通して描き出す。
★読みどころ2)二転三転するサスペンス!
現金強奪の容疑者は早めに見当がつくが、ドルを取り戻せるかどうかの顛末は終盤までまったく許さず、しかも意外な真相が待ち受けている。ドルを追う過程で、円ドル交換のような本土復帰にまつわるいろんな情報が盛り込まれるのがとても興味深い。
・他の都道府県とはまったく違う歴史を持つ沖縄の昭和史に向き合う一冊。

坂上泉『渚の螢火』
双葉社から1870円で販売中です。
関連記事

あなたにオススメ

番組最新情報