多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

京橋史織『午前0時の身代金』

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★内容紹介
・主人公は新米弁護士の小柳。ある日、彼の所属している事務所に専門学校に通う女子学生・本條菜子が相談に訪れた。騙されて振り込め詐欺に加担してしまい、グループから抜けたくても監視がきつい上に、逆らった他の女性が暴行の末に殺されてしまったという。復讐のため彼女は詐欺グループが請け負った仕事を妨害したところ、追われるはめに。なんとか自首したい、自首すればおとがめなしにならないだろうかという相談だった。
・既に何度か詐欺に加担していることもあり、執行猶予がつくかどうかギリギリのところ。とりあえず彼女を保護しようとするが、ちょっとひとりにした隙に、姿が消えてしまう。その翌朝、本條菜子を誘拐したというメールが届く。ただし届いたのは弁護士事務所でも自宅でもなく、あるIT企業。そのIT企業に、クラウドファンディング(ネット上で募金を集める仕組み)で身代金を24時間以内に10億円集めるようにという指示が届いた。しかもひとりが募金できる上限が決められており、少人数が多額の募金をするのではなく、少額でもいいから何十万人という人が参加しなければ達成できないようになっている。
・実は本條菜子は、父親がニュースキャスター、母親が人気料理研究家という有名人夫婦の娘。果たして10億円は集まるのか。犯人は詐欺グループなのかそうでないのか。菜子は無事に帰ってくるのか。前代未聞の誘拐劇が始まった──。
★読みどころ1)クラファンを使った誘拐という面白さ
誘拐ミステリは昔からたくさんの作品が書かれているが、犯人からの連絡方法や身代金の受け渡し方法というのが作家の腕の見せ所。これまでも時代ごとにいろいろなアイディアが盛り込まれてきた。新聞の活字の切り貼りに始まり、電話が「最新技術」だった時代もある。最近ではネットを使ったものが多く見られるようになったが、クラファンは初めて。こういうやり方があるのかという驚きとともに、国民が分担して払うというアイディアが面白い。実際にこういうことが起きたら、自分は協力するかな? 幾ら出すかな?と考えてしまう。さらに、親がテレビで訴えると募金が進むが、ネットで自己責任論が湧き上がったり、有名人の親のスキャンダルなどあることないこと書かれたりすると募金が鈍る。このあたりの描写もとても考えさせられる。
★読みどころ2)誘拐事件の顛末
途中から、これは本当に身代金目的なのか?と疑えるような、別の可能性が浮上してくる。先に出た詐欺グループがどうかかわっているのかなど、二転三転する展開で先が読めない。新人のデビュー作ということで、まだムダな描写があったり盛り込みすぎだったりという部分はあるが、読者を楽しませよう驚かせようという気概に満ちていて一気読みさせられる。
・令和の今だから登場した、新規軸の誘拐ミステリ。

京橋史織『午前0時の身代金』
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