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名取佐和子『図書室のはこぶね』

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★内容紹介
・主人公は高校3年の百瀬花音。バレー部のエースでばりばりの体育会系だが、ケガのせいで高校生活最後の試合には出られなかった。さらにリハビリ中のため、楽しみにしていた体育祭も見学が決定。他の生徒が体育祭の準備に駆け回る中、暇だからと図書委員から代打を頼まれる。
・図書室の掃除中、カウンターのトレイの下からケストナー『飛ぶ教室』を発見。図書室の蔵書であることを示すシールが貼られていたため、本棚にしまい忘れたのだろうと戻しに行くと、そこにはちゃんと『飛ぶ教室』があった。データベースによれば図書室に『飛ぶ教室』は一冊しかないはず。
・興味を持った花音が調べると、一冊は十年前に貸し出されたまま返却されず、紛失扱いになっていた本だとわかった。なぜ十年の時を経て戻ってきたのか?さらに花音は、その本の中に謎めいたメモが挟まれているのを発見する──。
・物語にはもうひとつの軸がある。それが体育祭で行われるダンス合戦。学校が創立された40年前から続いている伝統で、BCRの「サタデーナイト」に合わせ、クラス対抗でダンスを披露する。振りは厳密に決められているので、仮装とフォーメーションで勝負。しかし花音はケガのため参加できない。他にも「決められた振り付け」や「クラスで決めた仮装」のせいで参加できない人がいる。体や心の事情で参加できないひとを排除する伝統は本当に正しいのか?
・10年前の図書館の本と、ダンス対決。このふたつがつながって……。
★読みどころ1)図書室の謎めいた事件の顛末
まったく違う話だった図書室と体育祭が思いがけない形でリンクしていく展開が見事。詳しくは言えないが、体育祭のダンス対決が持つ同調圧力とか、方針に合わない者は参加させないという発想を、図書委員たちが知恵と熱意で覆していく。伝統とは何か、変革とは何かを考えさせてくれる。さらには10年前の出来事を調べる過程で、ミステリのような意外な展開とサプライズが待っている。
★読みどころ2)紹介される実在のさまざまな本
図書室が舞台なので、実在の本が物語の中にいろいろ登場する。このセレクトがいい!ケストナー『飛ぶ教室』はもちろん、木下龍也さんと岡野大嗣(だいじ)さんの歌集『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』は、ふたりの歌人が男子高校生の一週間を短歌で描いたもので、その1週間に思いがけない展開がある。現代短歌のポテンシャルや広がりを存分に味わえて、刺さる歌も満載の傑作歌集。また、小嶋陽太郎『火星の話』(文庫タイトルは『今夜、きみは火星にもどる』)はちょっと変わった女の子を巡る切ない小説。登場する作品が物語のテーマに 密接に絡んできて、その本を読みたくなる。
・物語の味わいに加え、新たな本との出会いも届けてくれる一冊。

名取佐和子『図書室のはこぶね』
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