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アンソロジー『読んで旅する鎌倉時代』

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★内容紹介
・アンソロジーとは、ひとつのテーマで複数の作家の小説を集めた短編集。今日紹介する本のテーマは、旅と歴史。ずばり、今年注目が集まる鎌倉幕府です。参加している作家は、高田崇史さんや天野純希さん、鈴木英治さん、砂原浩太朗さんなどなど、ベテランから人気作家、新進気鋭の若手までバラエティに富んだ13人が、それぞれ鎌倉幕府成立前後の物語を、別の視点から描いた。
・面白いのは、ひとりひとり主人公が違うのみならず、特定の鎌倉幕府成立ゆかりの場所を選んで、そこを舞台にしていること。そして、その場所が地図と写真で紹介され、ガイドブックのようになっている。これ一冊読むと、源頼朝や鎌倉幕府にまつわる場所とその位置関係がわかるだけでなく、どんな場所なのか、そこで何があったかを小説で読めるという仕組み。
・たとえば小栗さくらさんは、若き源頼朝が流された伊豆の蛭ケ小島を舞台に、頼朝と北条政子の出会いを書いている。そこに建てられた頼朝と政子の像の写真が掲載され、どういう場所かの説明がされてから、ふたりの物語が始まるので、読んでいてリアルに感じられる。
・矢野隆さんは、静岡県の黄瀬川近くの神社にある、頼朝と弟の源義経が初めて対面した場所とされる、対面石(椅子のような大きな石が向かい合って置かれている)を舞台にした。その意思の写真と場所の説明があったあと、実際のふたりの対面の様子を小説で描く。表面上はふたりとも対面の感激に涙を流すが、実は頼朝の方は、内心でこの弟をどう利用しようか考えており、後の悲劇を予感させる物語になっている。
・他に、たとえば頼朝が源氏復興を祈願して旗揚げした三島神社や、頼朝が建立した鎌倉の代表的観光地・鶴岡八幡宮、あるいは頼朝の嫡男・頼家が暗殺された修善寺など、盛りだくさん。13作入っているが、一編はどれもかなり短めの短編なので、とても読みやすい。
・源氏の旗揚げから鎌倉幕府成立まで順を追って描かれているので、これを読むと、一介の流人だった頼朝が、誰の助けを借りて、どのようにして幕府を作ったかがわかる。戦国や幕末と比べると、この時代のことはちょっとよくわからない、という人にはいい入門編になる。さらに、当然、同じ人物が複数の物語に登場するが、作者によって描き方が違う。この作者は頼朝をすごくかっこよく書いているが、こっちの人はけっこう小狡い人物として書いている、など解釈の違いが見えて、その人物がより立体的に浮かび上がってくる。大河ドラマと同じようなエピソードを書いている話もあれば、ドラマとは違う見方をしている物語もあり、こういう説もあるのかと歴史が多面的に見えるようになる。
・旅行ガイドブック的に読むもよし、小説を味わうもよしの一冊。
アンソロジー『読んで旅する鎌倉時代』
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