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福田和代『繭の季節が始まる』

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★内容紹介
・数十年後の近未来を舞台にした連作ミステリ。
・この時代、次々と現れる強力な感染症に対応するため、多くの国が「繭」という制度を作った。パンデミックを引き起こすのは「人と人が会うから」という原因を排除するため、流行の予兆があった時点で政府が定めた期間は一切の外出禁止、家にこもることが強制されるというもの。そうするとおおよそ2週間で感染のピークが過ぎ、4週間で新規感染者がほぼゼロになることがわかった。その間にワクチンや薬などの開発を急ぐことで、この「繭」の仕組みを取り入れた国では、ここ数十年、大きな流行は抑えこまれていた──という世界。
・かつて新型コロナウィルスが流行したとき経済が停滞したのを教訓に、さまざまな仕事にリモートワークや無人化、自動化、ロボットの導入などが進み、外出しなくても快適に過ごせるような社会のシステムが出来上がっていた。スーパーもコンビニもすべて休み、通販や出前は無人配送システムやドローンが使われる。人が外出していいのは犬の散歩だけで、それも個別に時間帯とエリアが指定される。
・そんな中でも、働かなくてはならない人たちがいる。医療従事者、消防、警察など。物語の主人公は警察官の水瀬アキオ。「繭」が始まることが国から宣言され、警察官も出勤人数が減らされる。いつもは2人1組で行うパトロールも、人工知能を相棒に1人で行う。そんな、外を歩いている人がひとりもいない町で起きる事件にアキオが対応する様子が、連作で綴られる。無許可で外を歩いていた犬を保護して飼い主を尋ねると部屋で死んでいた事件や、無人で稼働しているお菓子工場に誰かが忍び込んだ事件など。「繭」の中での事件、その顛末は?
★読みどころ1)設定の興味深さ
一昨年から何度かあった非常事態宣言を、より厳しくしたらこうなるという世界を描いている。他人とまったく合わなければ感染は抑え込めるという、今は現実的じゃないよねと世界を、未来を舞台にすることで「こういう技術が進めば可能になる」とリアルに描いた、一種のシミュレーション小説になっている。また、そんな特殊な状況の中で起きる事件をミステリにすることで、この世界特有の犯罪の動機が描かれ、謎解きが面白くなっている。
★読みどころ2)「繭」の中で人は何を感じるかを描いている。
「繭」が始まったときはみんな大人しく従い、むしろ非日常を楽しむ雰囲気すらある。ところが2週間を過ぎた頃から、家庭内暴力や夜間の無断外出などが目立ち始め、「繭」は政府の陰謀だ、感染症など存在しない、などという一派まで出てくる。さらに流行が予想より長引き、「繭」の期間が延期されると決まったとき、人々は……。
・近未来SFという設定で、現代を描いている。コミカルな筆致で楽しく読めるが、ふと、ぞくりとするような一冊。
福田和代『繭の季節が始まる』
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