多田しげおの気分爽快!!~朝からP・O・N

小野寺史宜『いえ』

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★内容紹介
・主人公は社会人3年目の三上傑(すぐる)。スーパーに勤務している。家族は高校の教頭先生をしている父、専業主婦の母、そしてこの春から大学4年になって就活を始めた妹・若緒。1年前までは特に大きな波もなく、そこそこ幸せで平凡な家族だった。ところが1年前、妹の若緒は恋人・大河の車に乗っていて事故に遭い、後遺症で片足を引きずるようになってしまう。
・大河は傑の中学時代からの友人でもあり、両親にも気に入られた好青年だった。だが、その事故が大河の些細な不注意から起きたものであったこと、大河には大きな怪我もなかったことなどから、三上家の中がぎくしゃくし始める。誠心誠意謝る大河に、父親は理解を示す。だが母親はそれに納得いかず、大河を責めない夫に不満を抱き、ケンカが絶えなくなる。若緒は足にハンデを抱えたまま就職活動をするがなかなかうまくいかない。そんな家族や友人にどう接すればいいのか悩む傑の半年間を描いた物語。
★読みどころ1)日々の暮らしの中の小さな理不尽に寄り添う姿
傑が抱えている問題はそれだけではなく、勤務先のスーパーでパートさんたちのリーダー格である女性とうまくいかないという悩みがある。妹のことが常に頭のどこかにひっかかっていて余裕がなく、友人たちとの飲み会でも友人のちょっとしたからかいに本気で怒ってしまったり、彼女からのデートの誘いにも気が乗らなかったり、そんな自分が嫌になって酒を飲み、駅のホームで吐いてしまってさらに自己嫌悪が加速する。自分が悪いわけではないが、かといって他の誰かが悪いわけでもない、誰かを責めることもできない些細な食い違いや行き違いが気持ちを重くしていく様子が丁寧に綴られる。その負のスパイラルから傑がどうやって抜け出すのかが読みどころ。
★読みどころ2)丁寧に描かれる主人公以外の人々
この物語は主要人物以外もとても丁寧に描かれる。噂話に名前がちょっと出てくるだけの人でもすべてフルネームで紹介され、どういう人か、どういう関係かが語られる。「名前のない人」はほぼ登場しない。この世の中は「自分」と「自分以外」で成り立っているのではなく、すべての人がその人にとっては「自分」であり、それぞれ考えや事情や背景や感情があって、それを理解し合ってつながりを作る中で生きているんだということが伝わってくる。家族のことや職場のことで悩んでいた傑が活路を開けるのも、みんなそれぞれ感情や事情を抱えた人間なんだと言うことに気づけたという部分も大きい。嫌なことが続くと余裕がなくなるが、そんなときにふと、大事なことを思い出させてくれる物語。
・作中には、著者の他の作品の登場人物や小道具がちらりと登場したりもする。そういう部分を見つけるのも楽しい一冊。

小野寺史宜『いえ』
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