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有栖川有栖『捜査線上の夕映え』

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犯罪学者・火村英生とミステリ作家・アリスのコンビが、察に協力して難事件に挑むシリーズで、短編集も含めるとこれが27冊目。
★内容紹介
・大阪市内のマンションの一室で、元ホストの男の死体が見つかった。死因は頭を殴られたこと。その死体はスーツケースに入れられ、クローゼットに隠されていた。つきあっていた女性が部屋を訪れて死体を発見し、警察の捜査が始まる。
・異性とのトラブルや借金問題などで、複数の容疑者が浮上した。単純な事件に見えたが意外にも捜査は難航。マンションの入り口やエレベータ周辺につけられた監視カメラを確認したところ、容疑者の出入りはあってもその時間帯やタイミングから犯行は不可能。さらに容疑者には皆、犯行日のアリバイがあった。果たして犯人は誰で、どんなトリックを使ったのか?
★読みどころ1)意外な方角からやってくる真相
本格ミステリとしては、撲殺死体がひとつだけで、密室だのダイイングメッセージだのといった華やかな(?)事件ではない。ただひたすらに監視カメラの映像を確認し、容疑者の発言の裏を取るという地味で地道な描写が続く。それを退屈にさせないのは、主人公ふたりの軽やかな会話と、人間味溢れる刑事たちの描写ゆえ。ただし、その地味な捜査が途中から急転する。具体的には言えないが、「ポイントはそこではなく、こっちだったのか」という展開が待っている。この仕掛けはシリーズ読者を特に驚かせるものだが、これが初読でも大丈夫。むしろ遡って読みたくなるはず。
★読みどころ2)コロナ禍での旅情ミステリ
舞台が2020年の秋で、コロナ禍の真っ最中ながらGo To キャンペーンが行われていた頃。容疑者たちも犯行時にはそれぞれ旅行に出ているし、監視カメラの映像もマスクで顔がわからないなどの描写もある。物語の途中から、火村と有栖川も関係者の過去を調べるために、その人物の故郷である瀬戸内海の島を訪れる。架空の島だが、香川県塩飽諸島の広島がモデルで、古い採石場や眺望抜群の山、そして瀬戸内に沈む見事な夕日の描写などが印象的。「旅に出られる日常」のありがたさや郷愁が物語に詰まっている。
・意外な展開に驚き、旅を味わい、シリーズを遡りたくなる一冊。

有栖川有栖『捜査線上の夕映え』
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