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逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

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★内容紹介
・舞台は1942年、第二次世界大戦下のソ連。ソ連は第二次対戦中、女性を兵士として前線に送った。その史実をもとにして書かれたフィクション。著者はこれがデビュー作。
・主人公は小さな村で暮らす16歳の少女、セラフィマ。大学への入学が決まり、将来は外交官になるという夢があった。しかしドイツ軍が村を襲い、目の前で母も、他の村人たちも惨殺されてしまう。あわやセラフィマも、というところでソ連の赤軍兵士に助けられた。
・その赤軍の女性兵士イリーナは、セラフィマに「戦いたいか、死にたいか」と問いかける。ドイツ兵への復讐を誓ったセラフィマはイリーナに誘われるままに、イリーナが教官を務める女性狙撃兵訓練学校に入った。そこで同じような境遇の少女たちと出会い、日々、厳しい訓練を重ねる。そしてついに彼女たちは狙撃兵としてスターリングラードの前線に出る──。
★読みどころ1)厳しいテーマながら、物語に入りやすいエンタメの構造
家族が殺される、復讐を誓う、組織に入って訓練する、その過程で仲間ができる、その仲間と力を合わせて敵に向かう、けれど敵にもそれぞれドラマがある──という構成には見覚えのある人も多いのでは。そこにロマンスや友情といった要素も入り、実は王道の青春バトル物の構造を使っている。ソ連とか第二次大戦とかちょっと興味ない、という人でもその世界にすんなり入っていける工夫がされている。
★読みどころ2)と言いつつ、戦争の不条理をしっかり描いている。
養成学校に入った少女たちは皆、家族を殺された子ばかり。こんな辛い思いをする人をなくしたいという思いで訓練に励むが、最初は人を撃つことに抵抗を感じる。しかし戦場に出ると次第にその感覚が麻痺し、殺した相手の数を「スコア」と捉えてその数を稼ぐことで喜ぶようになる。戦争という非日常が人の精神を破壊していく様子が凄まじい。さらに、ドイツ兵を愛してしまった女性がいたり、ウクライナ出身の兵士はもともと別の国だったのにソ連に占領されたという過去があり、ソ連兵として戦うことに葛藤があったり。敵と味方、善と悪といった単純な構造では語れない戦争の不条理が浮かび上がる。
・不条理と絶望の果てに彼女たちが何を掴んだか、少女たちひとりひとりのドラマが深く胸に刻まれる一冊。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
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